調査データや統計データを掲載するコラムを長く担当しているとIT業界が数字で見えてくる。ITサービス市場は2020年以降に「崖」が待っているとか、プライベートクラウドがパブリッククラウドを上回って成長するとか、仮想通貨の不正採掘を働くマルウエアが2017年下半期から急増しているとか、記者/編集者にとって「次」の企画を考えるには欠かせない材料だ。
市場の規模と成長率共に「すごい」と感じた調査がIoT(インターネット・オブ・シングズ)に関するものだ。数々あるが、直近でいえばIDC Japanが2018年3月14日に公表している。曰く、国内IoT市場におけるユーザー支出額、つまり市場規模は2017年実績が6兆2286億円。5年後の2022年まで年平均14.9%のペースで拡大し、2022年の市場規模は2017年比2倍の12兆4634億円に達するという。
同社の別の調査によれば、2017年の国内ITサービス市場は5兆5389億円。両者は完全に別ではなく重なる部分も多いと推測するが、市場規模だけを見れば既にIoT市場はITサービス市場を12%上回っている。
イメージしにくいなら自分たちで作ってしまおう
「消費者にとってIoTを使ったサービスってまだイメージがわかない。主戦場になっている自動運転や工場の無人化は消費者に遠く、肌身に感じない」。ソフト開発ベンチャーのSELTECH(セルテック)で社長を務める江川将偉氏はこう指摘する。
同社の主力ビジネスはセキュリティ、次いでAI(人工知能)だ。セキュリティやAIは、サービスがあって必要とされるもの。「IoTを肌身に感じられるサービスってなんだろうと模索していたが見当たらなかった」という江川社長は2016年、暴挙に出る。「それだったら分かりやすく『家』ってことで、家に関するサービスを作ってしまおう。IoTマンションでも始めてみるかと軽いノリで建ててみた」。
私費の1億5000万円を投じて、都内に3階建て全6戸のIoTマンションを半年かけて新築。2017年2月から江川社長は家族や社員たちと暮らし始めた。IoTマンションといっても「手元のスマホで外出先からでもエアコンをオン」「スマートロックで物理キーはもう不要」「AIスピーカーに話しかけて家電を操作」といったレベルでは無い。家中に備え付けたセンサーであらゆる行動をログとして収集・分析するマンションだ。