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 東京電力ホールディングスは2022年4月1日、同年3月の同社管内における電力需給の詳細データ「エリア需給実績データ」を公開した。これで、2021年度全体のデータが揃い、一通りの解析が可能になった。こうしたデータは海外では10数年も前から一般公開、国・地域によってはリアルタイムで公開されており、再生可能エネルギーの電力需給における割合などを詳しく知ることができていた。一方、東京電力がそうしたデータを若干の遅れはありながらも公開するようになったのは2016年度から。このデータを見ることで太陽光発電や風力発電の実績値などのほか、3月22日の東京電力管内における電力ひっ迫時に何が起こっていたのかも分かった。それを基に、需給のひっ迫対策も見えてきた。

 

 まず、2021年度の太陽光発電の出力の状況を俯瞰(ふかん)してみよう。データ自体は膨大で、そのすべてを一目で分かるようにするのは容易ではない。このため、1日の中で太陽光発電の出力がほぼピークになる正午の出力値だけを1年分、グラフにしてみた(図1)。

図1 太陽光発電の正午の出力値1年分
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図1 太陽光発電の正午の出力値1年分
(図:東京電力ホールディングスのデータを基に日経クロステックが作成)

東京電力管内の太陽光発電の実力は14GW

 これから分かるのは、(1)東京電力管内における太陽光発電の発電出力のピーク値は現時点で14GW(1GWは100万kW)、(2)年間を通じてそのピーク値に大きな変動がない、(3)春や秋は出力が安定しないが、夏や冬は1カ月単位で安定した出力が続くことが多い、といった点である。

 (1)については2021年4月の時点で既に13GW台が何度か出ている。ただし、その後は晴天でも12GW前後の日が続き、10月以降は11GW、11月半ば以降は10GWを超える日がほとんどなくなる。2月になると一転して出力が増え始め、3月の少し手前からは13GW台が頻発。22年3月25日にはついに初の14GW台を記録した。1GWはちょうど典型的な原子力発電所1基分の出力。もちろん、発電可能なのは晴天時の日中だけだが、一時的な出力の確保にはかなりの戦力となる。

 出力が秋以降伸び悩んだ大きな要因は、太陽の高度であると考えられる。3月の春分から9月の秋分までは正午の太陽高度が比較的高いが、秋の後半~春先までは低いからだ。太陽高度がほぼ同じ3月と9月で、9月の発電実績が芳しくなかったのは南関東に付き物の秋の長雨の影響だろう。

 筆者にとってやや意外だったのは、(2)のピーク値が真夏でも12GW弱と比較的高かったことだ。というのは、太陽光パネルは温度が上がると出力が下がる特性があるからである。具体的には、パネルの温度がセ氏25度よりT度上がれば、おおよそ0.4×Tポイント、発電効率が低下する。真夏日中のパネルの温度はセ氏60度にもなるとされているので、0.4×(60-25)=14%となる。もともとの太陽光パネルの発電効率が約20%なので、その14%減、つまり発電効率は17.2%になる計算だ。出力でいえば、13GWが11.18GWになる。ところが実際には、春の13GWに対して真夏でも12GW出る。パネルの温度はセ氏70~80度になるという説もある。やはり、思ったよりは出力が出ている。

 最近の太陽光パネルの特性が向上しているからかもしれない。これまでの太陽光パネルの多くは、「p型」と呼ばれるシリコン(Si)基板を用いているが、最近は「n型」を用いるようになってきた。このn型太陽光パネルは発電効率の下がり方が、0.25T~0.3Tポイントとやや小さい。つまり、セ氏60度では、10%程度の出力低下で済む。ただし、n型パネルはパナソニックやシャープの製品を除くとまだ販売され始めたばかり。それだけで説明するのは難しそうだ。

夏の晴天時は電力が余る事態に

 その謎は、21年7月18日のデータを見ることで解けたかもしれない(図2)。この日は、朝から太陽光発電の出力が大きく、9時には10GWを超えた。そして正午前後には当日の電力需要の約1/3となる13GW近くを発電した。揚水発電の値が負値になっているのは、揚水、つまり水を汲み上げるのに電力を消費しているからで、それをしなければ電力が余る事態ということだ。その間も他の電力会社から連系線を通じて最大5GW近い電力融通を受けているが、これはその電力会社の管内でも電力が余っていて、他社の系統を受け皿にしているからだと考えられる。

図2 なぜか太陽光発電出力が午後になって減っていく
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図2 なぜか太陽光発電出力が午後になって減っていく
気温は正午の東京での値。(図:東京電力ホールディングスのデータと気象庁のデータを基に日経クロステックが作成)

 ところが、午後になると太陽光発電の出力が下がり始めた。夏至から約1カ月後のこの時期は17時(午後5時)の太陽はまだかなり高いはずだが、出力は約2GWと大幅に低下した。この原因として最初は午後になって雲が広がってきたのかと考えたが、気象庁の当日のデータによれば結果は逆。つまり、午前中は南関東でやや雲があったが、午後はほぼきれいに晴れたことになっている。

 ここで考えられるのが、パネルの温度だ。午前中はまだパネル温度の上昇幅が小さく、太陽光発電の出力には大きく影響しなかったが、午後になると温度が上がって、夕方には大幅に出力が低下した、と考えると辻褄(つじつま)が合う。今後、電力の需給バランスを精緻に考える際にはこうした特性も考慮していく必要がある。

真夏に電力需給がひっ迫する事態はもう来ない?

 太陽光発電が大規模に導入される前、例えば、2000年代までは真夏の昼前後に電力需給がひっ迫するのは日常茶飯事だった。ところが2010年代半ば以降、そうした事態がほとんど起こらなくなった。

 その理由として当初言われていたのが、東日本大震災を受けた省エネルギーや経済構造の転換、具体的には製造業の海外移転やサービス産業の増加などが進んだことだ。ただ、電力の供給力が原発の停止で大きく減ったことを考慮すると、それだけで説明になるかは疑問だ。

 この7月18日の需給状況を見るとなぜ電力需給がひっ迫しないのかは一目瞭然で、太陽光発電の出力が大きいからだ。先にも触れたように、電力供給は不足どころかむしろ余り気味で、太陽光発電の出力が下がる夕方だけ少し注意すれば済むのである。

 これは逆に言えば、太陽光発電の出力が日中突然なくなると困った事態になることを意味する。しかし、夏はそうしたこともほとんど起こらない。関東広域が曇天や雨天などで太陽光発電の出力が伸びない場合は、気温もそれほど上がらず、電力需要も伸びないからだ。天候が不順だった2021年8月のお盆の時期の電力需給状況がその実例だ。例えば8月14日、天候は雨で太陽光発電の出力は非常に小さいが、気温が正午でセ氏25.4度と低く、電力需要自体が約30GW止まりだった(図3)。

図3 お盆は冷夏だった
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図3 お盆は冷夏だった
太陽光発電の出力は低いが、電力需要自体も少ない。気温は正午の東京での値。(図:東京電力ホールディングスのデータと気象庁のデータを基に日経クロステックが作成)

 その5日後の8月19日は久しぶりの晴天で、東京の正午の気温はセ氏33.0度。電力需要は50GW近くに増えたものの、太陽光発電の出力も増えて10GW超を相殺した(図4)。少なくとも夏は、太陽光発電の出力増と気温上昇による電力需要の増加には強い正の相関がある。つまり、電力需要が増えるときには太陽光発電の出力も増加して需要の増分を相殺。逆に太陽光発電の出力が伸びないときは電力需要も増えないのである。

図4 天候が回復し気温も上昇
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図4 天候が回復し気温も上昇
気温は正午の東京での値。(図:東京電力ホールディングスのデータと気象庁のデータを基に日経クロステックが作成)

 やや例外的な事態として、午前中晴れて気温が上がった日の午後に急激に関東広域が曇天か雨天になった場合に、電力需要が高いまま太陽光発電の出力だけが急減するといったことはあり得る。ただその場合も、数時間、揚水発電などで持ちこたえれば、その間に気温が下がって問題は解消する。

 先日、2030年度の太陽光発電の日本全体での設備容量は2020年度の2~2.5倍の154G~180GWになると調査機関が発表した。

 このように太陽光発電は今後も大きく増加する見通しで、真夏に需給ひっ迫が起こる可能性は低くなる一方といえる。むしろ、電力供給の余剰問題が深刻になるはずだ。