ERP(統合基幹業務)パッケージソフトを導入していた化学系製造業のA社。この製品は大手企業向けで、中堅下位の同社に合っているとは言いがたい。しかし、経営層の肝いりで導入が決まった。「製品を入れれば、同業の大手と肩を並べられるという幻想を抱いていたようだ」とA社の担当者は振り返る。
製品導入時に5億円を投じ、導入後は年間4000万円の保守費用を払っていた。ところが想定したとおり、「システムを思うように使いこなせない状態が続いた」(担当者)。ERPが想定するビジネスモデルとA社のモデルが異なっているのに加えて、製品のデータ構造が複雑すぎたからだ。
稼働から5年が過ぎ、経営陣の顔触れは変わった。システムに高いコストをかけている割に、有用なデータが出てこない点を新たな経営陣は問題視し、「システムを見直すべき」との声が上がった。
A社の担当者らは早速、ERPのリプレースを検討した。ところが結果的に、現行システムを使い続けることになった。システム刷新に3億円かかるとの見積もりが出たが、「それだけのコストをかける余裕はなかった」(担当者)。「次のシステム刷新のタイミングまで、何とかやりくりしていくしかない」。A社の担当者はあきらめ顔で語った。数年前のことだ。
パッケージソフトが「レガシー」になるとはどういうことか。筆者はこの取材で改めて実感できた気がした。
今も続くパッケージのレガシー化
レガシー(遺産)には良い意味も悪い意味もあるが、ITの世界ではほぼ悪者扱いされている。システムを長く利用している間に機能の追加や改変を繰り返し、プログラムはスパゲッティー状態(増改築を重ねた老舗の温泉旅館によく例えられる)で、保守は大変。ドキュメントは不十分で、システムに精通した人材は高齢化や異動などでほとんど残っていない。ビジネス面での急な要請にも応えられない。
だが業務に必要な処理はとりあえずこなせるし、システムの刷新に手間とコストをかけられない。しばらくはシステムを塩漬けにして使い続けるしかない──。ITの世界における負の遺産としてのレガシーはこんなイメージだろう。「しばらく」がどの程度なのかは企業によって異なる。3年かもしれないし、10年、15年かそれ以上かもしれない。