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 少し前まで「ITはわからない」と技術に距離を置く日本企業の経営者が見受けられたが、そうした経営者はすっかり影を潜めた。現在は多くの経営者がこぞって「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を使い始めている。

 きっかけは、経済産業省の『DXレポート』である。「2025年以降は年間最大12兆円の損失」と企業経営に踏み込んだ内容だったこともあり、IT企業だけでなく、大手を中心に日本の経営者が敏感に反応した。現在、多くの企業が「デジタルを活用した新事業開発」に注目するなど、「DX花盛り」と言える状況である

日本企業のDXアプローチは将来を見据えていない

 しかし、闇雲に突き進んではいけない。一度立ち止まって、自社のDX戦略が間違っていないか、考えてみるべきだ。残念ながら、多くの企業のDX戦略は見直すべきだと思う。デジタルテクノロジーを活用することに問題があるわけではない。ここで指摘したいのは、その「アプローチ」だ。事業戦略は「将来」を見据えて立てるものだ。将来を見据えたとき、多くの日本企業のDXアプローチは間違っていると言わざるを得ない。特に大企業ほど危険な状況である。

 なお、本記事で参考にしたのは書籍『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP発行)である。本記事に登場する事例などは、すべて同書の記載内容を参考にしている。

『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP)
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP)

大手企業が採っているアプローチ

 DXでは新たな事業にばかり目が行きがちだが、ここで注目したいのは既存事業である。おそらく多くの企業では、「会社を支えている既存事業はそのままであってほしい」との思いから、「既存事業は変えない」ことを前提にしているのではないだろうか。これでは落とし穴にはまってしまう。

 デジタル新事業がうまくいったとしても、当初の売り上げは小さいことから、既存事業とは切り離した新事業、または、既存事業のアドオンという位置づけであろう。たいていの既存事業はリアル(オフライン)事業なので、日本企業のDXアプローチは「オフラインとオンラインは別」または「オフラインにオンラインをアドオンする」となる。

 『アフターデジタル』を読めば、このようなアプローチはうまくいかないと気づくことができる。「オンライン」と「オフライン」という言葉を使えば、今の日本は「オフラインが主で、一部の情報がオンライン化された社会」である。オフラインとオンラインの比率がどのように変わるか。「オンラインの比率が上がる」に異論を唱える人はいないだろう。注目すべきは「どの程度上がるか」である。

オンラインが隅々まで浸透する世界

 筆者は『アフターデジタル』を読むまで明確にイメージできなかったが、本に書かれているデジタル先進事例を読んで、「オンラインやオフラインという概念はなくなるかもしれない」と思うに至った。つまり、「オンラインが隅々まで浸透する」と想像できたのだ。すべてがオフラインのとき、「これはオフラインだ」と言わないように、すべてがオンラインとなれば、誰も「これはオンラインである」とは言わなくなる。オンラインかオフラインかなど、誰も気にもしなくなるというわけだ。

 例えば、日本でも急速に広まったキャッシュレス決済によって、「買う」という行為はオンラインになった。スマホ決済であればスマホに個人情報がひも付いているので、どのような属性の人が何を買ったのか、すべてオンライン上の情報となる。

 決済つながりで言えば、最近話題の「無人コンビニ」では「ショッピング」がオンラインになる。入店すればスマホで個人が特定され、店内カメラによってその人が店舗内のどこを歩いたのか、どの商品を手に取ったのかなど、それらすべてがオンライン上の情報となる。

 オンライン化に向かっている取り組みを挙げれば切りがなく、街中にはネットワークにつながった監視カメラがあふれ、個人宅にはIoTセンサーが導入され、人の行動はどんどんデジタル化されている。企業内の業務もデジタル化が進み、これまで紙を使うことの多かった各種行政手続きでさえもオンライン化されようとしている。

 いつかはわからないが、「オンラインが隅々まで浸透した」世界はいずれやってくると想像できる。そうした世界を『アフターデジタル』の著者らは、本のタイトルである「アフターデジタル」と呼ぶ。ちなみに、今の日本のように、「デジタルが社会の隅々に行きわたっていない」状況は、「アフターデジタル」との対比で「ビフォアデジタル」と呼んでいる。