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 「マジですか」――。思わず素が出てしまった。日産自動車の技術・製品開発の総本山である日産テクニカルセンター(NTC)で次世代エンジンの取材をしているときだった。

 日産は2021年2月、発電専用ガソリンエンジンの最高熱効率が50%に達する見通しを発表。日産の現行エンジンの最高熱効率は38%ほどで、3割超の大幅な向上を目指すという野心的なものだ。

 次世代エンジンの技術の詳細を取材する一環として、NTC内にあるエンジン開発の現場を見学した。様々な実験室や機材などを紹介してもらう中で、筆者が一番驚いたのが「フル可変単気筒エンジン」と名付けられた試験装置だった。

 このフル可変単気筒エンジンがすごいのは、油圧制御によって吸排気バルブとピストン駆動を自在に操れるところ(図1)。「圧縮比や気筒の行程(ストローク)長を変えるくらいなら、頑張ればその日のうちにできますよ」と日産の担当者がさらりと言ったところで、筆者は冒頭のように反応してしまった。

図1 日産の「フル可変単気筒エンジン」
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図1 日産の「フル可変単気筒エンジン」
油圧制御によって吸排気バルブとピストン駆動を制御する。圧縮比やストローク長、コンロッド長、クランクオフセットなどのパラメーターを容易に変更できる。(撮影:日経Automotive)

 圧縮比やストローク長を変えたエンジンを検討する場合、一般にはシリンダーやピストンなどの部品を新たに設計して試作品を用意する必要がある。「図面を描いて試作部隊に頼み、完成を待っていたら半年かかるのも珍しくない」(同担当者)。フル可変単気筒エンジンを使えば、この待ち時間を大幅に短縮できるのだ。

 このエンジンの利点は他にもある。様々な条件のエンジンを“味見”できる点だ。

 例えばエンジンの最高熱効率を高める開発では、技術者としては当然、圧縮比やストローク長の変更を含め幅広い可能性を視野に入れる。だが、開発にかけられる時間や資金などとの天秤(てんびん)で、試作品を使って性能を検証できるバリエーションは限られる。

 吸排気バルブとピストン駆動を制御できるこの試験用エンジンは、パラメーターとして圧縮比やストローク長に加えて、ピストンとクランクシャフトをつなぐコンロッドの長さ(コンロッド長)や、シリンダー軸とクランク軸をずらすオフセットの幅(クランクオフセット)などを設定できる(図2)。設定は、試験用エンジンに接続したパソコンで調整すればいい。部品の試作なしに技術者の発想を手軽に検証できる、究極の“味見”エンジンと言っていいだろう。

図2 フル可変単気筒エンジンで試験をしている様子
図2 フル可変単気筒エンジンで試験をしている様子
試験システムは、エー・アンド・デイ(A&D)と構築した。
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