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 横浜市立大学データサイエンス学部卒で現在同大大学院で研究する上矢莉子さんと吉水優里子さんには、忘れがたい経験がある。大学1年も終わろうとしていた2019年春、2人はデータサイエンスのイベントに向けたコンペでチームを組み、「学生の部」で最優秀賞を受賞したのだ。

 テーマは「データを活用した次世代の新しい働き方」。「37,420,000パターン ~新しい時代の働き方~」。「働くお母さん」をターゲットとして設定し、ターゲットが置かれている現状分析を踏まえた新たな働き方を提案した。それを実現するためのツールや方法を提示したことが評価された。

データサイエンスの裾野を広げる草の根活動

 2人が参加したこのイベントは「Women in Data Science(WiDS)」といい、データサイエンス分野において活躍する人材を育成する世界的な活動で、米スタンフォード大学を中心として2015年に始まった。WiDSの活動は現在、50以上の国・地域で展開しており、参加者は年間約10万人規模になっている。この活動の目的は、女性がデータサイエンスの分野で活躍できるよう勇気づけることだが、参加できるのは女性だけではない。

 日本でも活動は広がってきた。WiDSの活動は産官学連携の下で行われ、「WiDS TOKYO@Yokohama City University」はシンポジウムを2019年3月から開催し、2023年3月で5回目を数える(第2回以降はオンライン開催)。他にもWiDS HIROSHIMA とWiDS SHIKOKU、日本IBMがそれぞれのプログラムを展開している。ワークショップを開催するところもある。

 WiDS TOKYO@Yokohama City Universityが開催するシンポジウムの主なプログラムは、女性データサイエンティストによる発表やパネルディスカッション、学生などが参加するコンペの結果発表だ。産官学をはじめさまざまな分野で活躍している人々が情報を交換し、データサイエンスの面白さを伝えている。

 例えば2023年3月8日の講演には若宮正子さんが登壇した。「世界最高齢のアプリ開発者」として有名な若宮さんは、シニアのIT活用に興味を持っている。デンマークとエストニアを訪れ、両国のデジタル施策がシニアをどう支援しているのかや、それに対するシニアの意見などをまとめた調査結果を発表した。

 日本でのWiDS活動の発起人が、横浜市立大学データサイエンス学部の小野陽子准教授だ。計算機統計学やデータサイエンス倫理を同大で教えながら、WiDSを自国や地域で企画・実行する旗振り役の「アンバサダー」として支えている。

横浜市立大学データサイエンス学部の小野陽子准教授(右)と講演者の若宮正子さん。WiDS TOKYO@Yokohama City University第5回シンポジウムにて
横浜市立大学データサイエンス学部の小野陽子准教授(右)と講演者の若宮正子さん。WiDS TOKYO@Yokohama City University第5回シンポジウムにて
(写真:WiDS TOKYO@Yokohama City University)
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 小野准教授はWiDSを「草の根の活動」と位置づけており、若い人材の底上げでも存在感を強めている。例えば、2023年のコンペに応募した53組のうち、中学生チームが優秀賞を受賞した。「笑い」の効用について調査した結果は評価が高かったという。また、WiDS TOKYO@Yokohama City University第1回の受賞者の出身校では、その縁からWiDSの認知が広がり、同校から多くのチームが応募するといった成果に結びついている。