3Dプリンターがぐッと身近になってきた。新型コロナ禍下において、3Dプリンターを使ってフェースシールドを造る取り組みが注目を浴びたのは記憶に新しい。多くの企業や大学が、独自に設計したフェースシールドの3DモデルをWebサイトで無償公開した。また、不織布やガーゼなどを挟んで使う立体的なマスクや、マスクのひもを引っかけて耳の痛みを軽減するグッズを個人が3Dプリンターで作製する動きも見られた。
こうした動きは、3Dプリンターの低価格化や使い勝手の向上などが進み、個人レベルへの普及が進んできたことを示している。実は筆者も2020年4月ごろに3Dプリンターを購入した。といっても、フェースシールドやマスクを造形するためではない。3D-CGモデリングを趣味で学んでいるうちに、3Dプリンターで造形された精巧なフィギュアやアート作品をツイッターで見る機会が増え、自分も画面上のCGモデルを手に取れる実物として出力してみたいと思ったからだ。
画像は筆者が3D-CGソフトでモデリングし、3Dプリンターで出力した「ミニチュア花瓶」である。モデルは3Dプリンターの作例でよく見られる、筒を水平にひねった単純な形状だが、断面を「X」の字形にすることで何とか独自性を出してみた。今回はひねりの量や底の形状を変えた3種類を造形した。いずれも高さ約3.5cmと小さなサイズにもかかわらず、かなり精密に造形できている。
個人でも購入できるような低価格な3Dプリンターには主に2種類の造形方式がある。1つは、フィラメント状の材料を熱で溶かしてノズルから吐出する「FDM(Fused Deposition Modeling、材料押出法)」、もう1つは液体の紫外線硬化樹脂(UVレジン)に光を当てて硬化させる「光造形(液槽光重合法)」だ。FDMは造形可能サイズが比較的大きく、工業製品に使用されるアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂や生分解性プラスチックのポリ乳酸(PLA)をはじめとする様々な種類の材料を利用できるといった強みがある。このため、フェースシールドのように機械的強度を求められる場合はFDMで造形することが多い。
筆者が購入したのは、後者の光造形式3Dプリンターである。同方式は微細な形状を高精細に造形でき、造形物の表面も積層の段差が目立たず滑らかなので、アート作品やデザイン重視のものの造形に向いている。FDMと比較して造形サイズは小さく、材料も限られるが、細かな造形のフィギュアやアクセサリーの製作にはもってこいだ。ツイッターやブログなどで光造形式3Dプリンターを用いた立体作品を見ていると、自作キーボードのキーキャップやボードゲームの駒といった作例もある。
従来、個人が利用する3DプリンターといえばFDM式が主流だったが、ここにきて光造形式3Dプリンターの価格が劇的に下がってきた。筆者が通販サイトで1年前に約4万円で購入した製品は現在約2万5000円で、他にも1~3万円台の製品が多数販売されている。その多くが中国メーカーのもので、構造やデザイン、スペックに大きな違いはみられない。これらの格安プリンターの構造は、底が透明なレジンタンクの下から3Dモデルの断面(スライスデータ)に応じた光を1層ずつ照射して硬化させていくタイプである。
これほどの低価格を実現できるようになったのは、スライスデータに応じた光を照射するLCDパネルに、スマートフォン(スマホ)向けのLCDパネルを流用しているからとみられる。筆者の3DプリンターのLCDパネルは5.5インチ、解像度は2560×1440で、一昔前のスマホと同等のスペックだ。スマホのディスプレーが大型化し、4k解像度が一般的になってきたのを受けるかのように、格安3DプリンターのLCDパネルも大型化・高解像度化が進んでいる。スマホのスペック向上によって、誰もが高性能な3Dプリンターを安価に手に入れられる環境が整ってきたのだ。