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 システム関連の取材は、それぞれ別の話題でありながら米企業に申し込むことが多い。筆者が前回特集で取材したシステム監視に関するユーザー事例は日本企業が中心だったが、利用するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の提供企業は全て米企業だった。

 具体的には米Datadog(データドッグ) 、米Splunk(スプランク)、米Dynatrace(ダイナトレース)、米New Relic(ニューレリック)などシステム監視ツールを提供する新興のIT企業だ。データドックは設立してから10年ほどしかたっていないが、時価総額約432億ドル(約5.5兆円、特集執筆時)という規模へと急成長を遂げている。さらにシステム障害の際、担当者に自動的に電話をかけるサービスを提供する米PagerDuty(ページャーデューティー)、メッセージを自動送信するチャットツールの米Slack(スラック)などと目白押し。米企業一色で日本企業のシステム監視活動は成り立っていた。

日中でオンライン会議ソフトの大規模調査

 システム監視の取材の最中、野村総合研究所が中国のテンセント研究院と共同で実施した「オンライン会議ソフト利用動向調査」の調査結果を発表した(2022年2月、野村総合研究所・テンセント研究院 日中共同研究成果「オンライン会議ソフト利用の比較分析から見る日中デジタル化の進展度の違い」)。オンライン会議ソフトについて日中における利用シーンや浸透具合などを比較したもので、日本からは9000人、中国からは1万人超という大規模なインターネット調査を基にしている。調査期間は2021年3月、分析には4~8月の5カ月間をかけた。

 日本が関わる大規模調査は中国では珍しい。デジタル化を支える代表的なサービスであるオンライン会議ソフトに絞った同調査から、日本がデジタルに後れを取っている理由が見える。現地のプラットフォーマーの充実度がデジタル化に寄与している様子がよく分かるので、一部を紹介したい。

 中国のオンライン会議ソフトの利用率は、総じて日本より高い。日本では「仕事でオンライン会議ソフトを使っているか」に対する回答で「(利用が)ある」と答えた割合は48%、「(利用が)ない」は52%だった。中国で同じ質問をしたところ、「ある」という回答の割合が一番高い業界は情報伝達業で92.3%、一番低い業界(その他)で48.1%だった。

中国と日本のオンライン会議ソフトの利用率(注:中国の調査では、オンライン会議ソフトを使ったことがない人にも業種などの属性情報を聞いているため、業種別利用率を算出している)
中国と日本のオンライン会議ソフトの利用率(注:中国の調査では、オンライン会議ソフトを使ったことがない人にも業種などの属性情報を聞いているため、業種別利用率を算出している)
(出所:野村総合研究所)
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 調査を担当した野村総合研究所の李智慧未来創発センターグローバル産業・経営研究室エキスパートコンサルタントは「傾向として日本は主に大企業中心の傾向、中国は中小企業まで遜色なく使っている」と指摘する。

 中国では新型コロナウイルス禍で、大企業のみならず中小企業にリモートワーク導入が進んだ。それまで押印手続きなどがリモートワークを阻害していたが、例えばアリババグループが提供するオンライン会議ソフト「DingTalk」を導入すれば会社内の連絡先、タスク管理、スケジュール管理、勤怠管理などを含めて全て1つのアプリで幅広い業務が完結できる。さらにコロナ対応で、検温の申告機能といった健康管理機能が急きょアドオンで追加された。

 こうしたツールの多機能性がリモートワークを支え、社内業務のデジタル化を加速したといえる。