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 新型コロナウイルス感染拡大で、製造装置としての活躍の場を広げているアディティブ製造装置(AM、3Dプリンター)。欧米や日本などのさまざまな企業が、フェースシールドや人工呼吸器の部品製造に活用し始めている。

 医療や建築とその活用領域を広げている3Dプリンターだが、今後さらに期待される分野の1つにスポーツがある。例えばアシックスは、陸上の桐生祥秀選手向けにピン無しの炭素繊維強化樹脂(CFRP)製ソールを開発した。スポーツ分野での活用は国内でも今後どんどん広がるに違いない。そんなカスタム部品製造の適用が期待できる種目の1つにフェンシングがある。トップアスリート向けの取り組みを知る機会を得たので紹介しよう。

 フェンシングで用いる剣の「ヒルト」という部品をご存じだろうか。ピストルのような形をした剣のグリップ部の部品である。記者は全く知らなかったのだが、フェンシングの剣は一体ものではなく、ブレード(刀身)、ヒルト、ポアン(剣先)、ガルト(握り手をカバーするカップ)、つば、配線コードなどから成る。中でもブレードと選手のインターフェースであるヒルトは、剣を思い通りに操るための重要な部品といえる。

フェンシングの剣のグリップ部「ヒルト」
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フェンシングの剣のグリップ部「ヒルト」
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フェンシングの剣のグリップ部「ヒルト」
本文で後述する金属3Dプリンターで造形したカスタム品。右の写真のように立てて握る。(出所:日経クロステック)

 このヒルトを、3Dプリンターを利用して選手個人に最適化し、勝率アップにつなげようとしている企業がある。それが、エペ*1競技日本女子代表チームの黒木 夢選手を擁するタマディック(東京・新宿)。同社は、航空宇宙や自動車分野で製品の開発・設計や試作の請負や、技術者派遣などを手掛けるエンジニアリング企業でもともとスポーツ、それもフェンシングとは無縁だった。そんな同社が、初のスポーツ枠として2017年に採用したのが黒木選手だった。

 黒木選手は女子エペ日本代表候補の1人で、2012年の全国高等学校総合体育大会の女子個人エペで準優勝、2015年の全日本学生フェンシング選手権大会で優勝、2016年の全日本フェンシング選手権大会の女子エペ団体戦で優勝するなどして活躍している。

フェンシングエペ競技日本女子代表候補の黒木 夢選手(中央)。
フェンシングエペ競技日本女子代表候補の黒木 夢選手(中央)。
右はカスタムヒルトの開発をてがけたタマディックのエンジニア篠 孝忠氏。(出所:タマディック)
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*1 エペ フェンシングの競技の1種。全身全てが打突の有効面で、先に突いた方にポイントが入る。この他に「フルーレ」「サーブル」がある。フルーレは胴体のみが打突の有効面。サーブルは上半身だけが有効面だが、突くに加えて斬る攻撃もある。