新型コロナウイルスの感染を判別する手段として急速に広まったPCR検査。この猛烈な追い風を受けて成長したのが千葉県松戸市に本社を置くプレシジョン・システム・サイエンス(PSS)だ。同社はPCR検査の前処理である遺伝子抽出に使う試薬や全自動のPCR検査装置の開発・製造を手掛ける。2022年4月21日には秋田県大館市に新工場を完成させた。全長約100mの生産工程をほぼ自動化し、遺伝子抽出試薬の生産能力を従来の6倍に引き上げた。
「遺伝子抽出試薬を造る工場としては明らかに世界一だ」――。PSS代表取締役社長の田島秀二氏は、完成した新工場「大館試薬センター第二工場」について、誇らしげに語る。取引先であるスイス製薬大手のロシュなども称賛したという。「世界一」と自負するポイントは生産能力と自動化率だ。
月産300万回分の試薬を生産
本題に入る前に、PCR検査の基礎知識を確認しよう。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)とは特定の遺伝子を倍々に複製・増幅させていく技術。PCR検査は、遺伝子を指数関数的に増やして調べるので検出感度が高い。PSSの装置の場合、PCRの過程で遺伝子の種類を特定できる蛍光色素を与え、それをスキャナーで確認することで、目的の遺伝子の増幅の過程を測定している。
PCR検査の前段階として必要なのが、検体から遺伝子を取り出す処理だ。多数の試薬を使う煩雑な作業となる。PSSはこの作業を簡単にするために、必要な試薬を、試薬同士が混ざらない形で1つの容器にまとめた「プレパック試薬(遺伝子抽出試薬カートリッジ)」を開発し、販売している。プレパック試薬を同社製の全自動PCR検査装置に載せると、一度に8~24検体を2時間程度で人の手を介さずに検査できる。
新設した第二工場で量産するのは、このプレパック試薬だ。新工場が7月に本格稼働すると、生産能力は従来比6倍の月産300万回分になる。新型コロナウイルス感染症が拡大する前の17年ごろの生産能力は月産8万回分だったので、17年比較だと37.5倍にも生産量を増やした*1。
大幅に増産できた背景には、設備の自動化がある。プレパック試薬の生産工程は大きく3段階に分けられる。容器の成形、試薬の充填(分注)、そして試薬の入った容器にアルミシールで蓋をする封入だ。各工程の進化した設備を見てみよう。