東芝はカーボンニュートラルで大きな勝機を狙い、独自の太陽電池の開発を進めている。それが、透過型亜酸化銅(Cu2O)と従来の結晶シリコン型太陽電池を組み合わせた「タンデム型太陽電池」。フィルム型の「ペロブスカイト太陽電池」と並んで、同社がカーボンニュートラルでの商機に勝負をかける太陽電池だ。
Cu2Oタンデム型太陽電池は30%以上の変換効率を視野に入れる。電気自動車(EV)の屋根部などに設置して「充電しなくても走れるEVの実現を目指す」(同社研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所 トランスデューサ技術ラボラトリーの山本和重氏)とする。
実用化目標は2025年。カーボンニュートラル市場拡大の波にうまく乗れば、イノベーション(技術革新)を起こす可能性を秘めると期待する。
異なる性質のセルを組み合わせるタンデム型太陽電池は、面積を増やさず太陽電池の高出力化を図る手法だ。太陽光が直接入射する上層側トップセルと、下層側のボトムセルから成る。透明なトップセルとボトムセルで、幅広い波長の太陽光を吸収して二重に発電し、高効率な太陽電池を実現する。
既に実用化されている透過型タンデム型太陽電池は、ガリウムヒ素(GaAs)半導体と結晶シリコンを組み合わせる。結晶シリコン太陽電池の1.5倍程度の変換効率を実現するが、価格が数千倍と高額で、人工衛星など特殊な用途に限られ、一般的に利用されるには至っていない。
東芝は19年1月、このタンデム型太陽電池の市場に参入すると発表した。その切り札がCu2O。低コストで高効率だが透過性のなかったCu2O太陽電池の透明化に成功したのだ。
同社はタンデム型太陽電池を開発する際、ボトムセルとして結晶シリコン太陽電池を選択した。「長波長光で効率的に発電でき、価格がこなれており、技術面での蓄積があったからだ」(同社研究開発センターの山本氏)。さらに開発品のCu2Oは、結晶シリコン太陽電池を補完するのにうってつけだった。
主成分である銅(Cu)と酸素(O)は豊富に存在し、資源供給面で安定している上に安価。ワット単価(発電量1W当たりの製造コスト)は結晶シリコン太陽電池より低い価格を達成し得る。
また、ボトムセルの結晶シリコン太陽電池の分光感度との重複が少なかった。Cu2O太陽電池は波長600nm付近を境に、それよりも短波長側の紫外から黄色までの光を吸収して発電する。結晶シリコン太陽電池は、その長波長側の橙(だいだい)色から赤外光を吸収して発電する。
ただし、従来のCu2O太陽電池は光透過性がなかった。突破口はその透明化に成功したこと。山本氏は成功の理由について、「ひとえにCu2Oをうまく作れるようになったことに尽きる」と話す。
Cu2O太陽電池に用いるCu2Oの薄膜は、スパッタリングで製造している。その際に供給する酸素量が少ないとCu2O薄膜内にCuが形成され、多過ぎるとCuOが形成されやすくなる。いずれも透過率が低下し、黒ずんでしまう。そこでCu2O薄膜形成プロセスにおける基板温度と酸素ガス流量の条件を適正化。異相や光学散乱の少ないCu2O薄膜を透明電極上に、再現性良く成膜する技術を確立した。「この適正化した成膜条件が当社の発見であり、開示していない」(山本氏)