全2086文字
PR
神島化学工業は透明度の高いセラミックス製品をレーザー核融合向けに供給する(写真:神島化学工業)
神島化学工業は透明度の高いセラミックス製品をレーザー核融合向けに供給する(写真:神島化学工業)
[画像のクリックで拡大表示]

 最近、核融合発電に関する取材の機会が増えた。多くの関係者に話を聞く中で、核融合の多くの分野で日本企業が大きな役割を果たしていると実感するようになった。特に材料分野では、企業が長年培ったものづくり力が競争力となり、競合の追随を許していないという。日本の製造業の裾野の幅広さが強みになっている。

 電線大手のフジクラは、核融合向けに「高温超電導線材」の生産を拡大している。高温超電導線材は、超電導としては比較的高い100K(セ氏マイナス170度)程度で電気抵抗をゼロにできる導線だ。強力な磁場をつくり出すのに欠かせない重要部材であり、高い技術力が要求されるので製造できる企業は世界でも一握りとされる。

フジクラの高温超電導線材。テープ状の多層構造になっている(写真:フジクラ)
フジクラの高温超電導線材。テープ状の多層構造になっている(写真:フジクラ)
[画像のクリックで拡大表示]

 核融合発電では核融合を起こすためにセ氏1億度を超える超高温のプラズマを維持する必要がある。超電導線材はそのプラズマを磁場で閉じ込めるのに利用する。フジクラの高温超電導線材は、高磁場環境下でも超電導を維持できる特徴があり、より強力な磁場でプラズマを小さな体積に閉じ込められる。このため核融合炉の小型化に役立つ見込みだ。

 フジクラは2022年上期から、核融合関連スタートアップの米Commonwealth Fusion Systems(コモンウェルス・フュージョン・システムズ、CFS)に高温超電導線材を供給している。CFSが建設を目指す次世代の商用核融合炉「ARC」の大きさは、従来型の大型核融合炉「ITER(イーター)」と比べて40分の1まで小型化できる見通しだ。

コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)が建設を目指す核融合炉「ARC」(左)と、国際プロジェクトでフランスに建設が進む「ITER」(右)(出所:左はCFS、右はITER)
コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)が建設を目指す核融合炉「ARC」(左)と、国際プロジェクトでフランスに建設が進む「ITER」(右)(出所:左はCFS、右はITER)
[画像のクリックで拡大表示]

 ITERは、プラズマを閉じ込めるコア部分だけで直径が約30m、高さは約17mと大きい。従来の低温超電導線材を使うため磁場を強くできず、その分コイル部材が大型化するからだ。通常、強磁性と超電導は相性が悪く、従来の金属系の低温超電導線材に強い磁場をかけると超電導を維持できなくなる。

 しかし近年、特定の材料や構造を使えば、強い磁場でも超電導状態を維持できることが分かってきた。フジクラは1980年代に高温超電導線材の研究開発を始め、さまざまな材料や製造手法を検討してきた。その中でレアアースを主材とする素材が最適解だと導き出した。

 そのほか導線として機能させるため、超電導結晶の配向をそろえるという難しい製造技術も確立した。電線メーカーとして長年培った材料知識や基礎研究、製造技術が実を結び、今では核融合発電の実現になくてはならないものになった。