ディープラーニング(深層学習)の技術を使い、見る、聞く、理解する、話すといった人のような認知機能を実現するクラウドAIサービスの利用が広がっている。米アマゾン ウェブ サービス、米マイクロソフト、米グーグル、米IBMなどの主要なクラウド事業者が提供している。
クラウド事業者が膨大な学習用データによって開発したAIであり、画像に映っているものの認識、同一人物判定、性別や年齢の判定、自然言語の意図解釈、機械翻訳などの単機能に分かれている。ユーザー企業は用途ごとに最適なニューラルネットワーク(深層学習で多く使われる仕組み)を組み上げたり、学習用データを用意したりする必要がない。
鏡の前に立った人物の感情をAIが判定
中でも画像認識はディープラーニングの成果が出やすい分野の一つで、採用事例が増えつつある。例えば博報堂は2017年3月、学習済みAIと鏡を組み合わせたターゲティング広告配信システム「Face Targeting AD」を発表済み。システムの中核となるのは、マイクロソフトが提供するクラウドサービスMicrosoft Azureの学習済みAIサービス群である「Microsoft Cognitive Services」だ。
Cognitive Servicesでは、画像に写っているものを識別する、自然言語の意図を理解するといったAIの機能ごとにAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)化している。博報堂はCognitive Servicesの中から顔認識の「Face API」を利用した。Face APIに人物の画像を入力すると、性別や年齢、眼鏡の有無に加え、怒りや喜びといった感情の度合いを示した数値が判定結果として返ってくる。
Face Targeting ADでは、鏡の前に立った人物の特徴や顔の表情をAIが解析し、そのときの感情や状態に合わせた広告を表示する。「疲れているときは栄養ドリンクを表示したり、悲しそうな表情をしていれば思い切り泣ける映画の広告を出したりする」(博報堂の須田和博ビジネスインキュベーション局スダラボエグゼクティブ・クリエイティブディレクター)といった具合だ。
店舗にECサイトの手法を盛り込む
三重県伊勢市で商業施設を運営するゑびやも、Face APIを使い、来店客の数や属性、感情を認識する仕組みを構築した。2017年7月からデータを収集している。リアル店舗でありながら、EC(電子商取引)サイトのように入店率や購買率を把握できるようになった。A/Bテストなどで新たな気付きを得るなど、業務効率化に生かしている。