ロシアによるウクライナ侵攻は今なお続く。早く終わり、人々が安心できる日常に戻ることを願ってやまない。
最近、ウクライナに関連して2社から話を聞く機会があった。両社とも自国以外の国・地域に多く拠点を持つDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を手掛けるIT企業である。成長を支えるチームや組織がどういうものかが興味深いので紹介したい。同国を本拠とするELEKS(エレックス)と、東京が本拠のモンスターラボホールディングス(モンスターラボ)である。
案件ごとに「スマートチーム」
テクノロジー人材を輩出するウクライナは「東欧のシリコンバレー」と形容される。ELEKSは設立から30年ほどで、アウトソーシング分野で培った技術をベースに2000人超の専門人材と13カ国17拠点を持つ規模になった。
成長のカギは仕組みや組織にあるのではないか。そう思い、2000人超いるプロフェッショナルをどう動かしてアジャイルに仕事を進めているのか、ELEKSのDeputy CTO(最高技術責任者代理)を務めるVitalii Yuryev(ビタリー・ユリエフ)氏に聞いた。教えてくれたのは、同社の柔軟なチーム編成だ。
ELEKSでは顧客の案件ごとに「スマートチーム」を形成する。1つのスマートチームには、プロジェクトマネジャー、ビジネスアナリスト、ソフトウエア技術者、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーが含まれる。
スマートチームはプロジェクトマネジャーがメンバーを決める。社内に複数ある専門家集団と連携しており、エンジニアを含めた候補者を選び、案件に合うかどうかヒアリングしていく。プロジェクトには常に専任がいるとは限らず、プリセールス(技術営業)エンジニアがスマートチームのメンバーになっていたり、期間によってプロジェクトマネジャーが別のプロジェクトにアサインされていたりするケースもある。
サッカーチームと同じ
ユリエフ氏によると、ELEKSで特徴的なのは、人員計画を精緻な予測に基づいて作成していることだ。複数の組織が過去のデータに基づく予測を算出しているから可能だという。採用部門や専門家集団、人員の負荷やスケジュールを把握して計画策定を助けるキャパシティーチームとが連携し、プロジェクトに必要な人数を過去の実績に基づいてはじき出す。
営業部門も向こう四半期や1年でどの程度の規模のプロジェクトが見込めるかや顧客の求める技術などを予測している。予測と合わせ、プロジェクトに付随するイベント(契約書締結など)の進捗(しんちょく)も勘案する。
プロジェクトに急な増員の要請があっても一定の割合でアサインのない「サッカーチームでいえば控え(リザーブ)のメンバー」(ユリエフ氏)がおり、すぐに対応できるとしている。想定よりリザーブに余力があれば、営業メンバーが案件を確保するよう動く態勢になっているという。
サッカーチームとはうまい例えで、試合(プロジェクト)に際し、監督(プロジェクトマネジャー)が起用選手(専門家集団から選定)を決める。そして彼らを支えるスタッフ(採用部門など)がいる。監督・選手は試合をつくり、連携して効率的にゴール(プロジェクト完了)を目指す。試合日程や流れ次第で、選手も監督も試合を掛け持ちする。選手は2000人以上もいる。これがいかに大変なことか分かる。
さまざまな部門が連携し、予測に基づきスマートチームのメンバーを試合中のサッカーチームのように柔軟に変えて実践している。ユリエフ氏は「明日からでもという顧客の要望に迅速に対応するため、計画がカギになる」と強調する。
実践は新型コロナ禍にあっても生かされ「(会社は)一人も解雇しなかった」(ユリエフ氏)という。同氏は侵攻後も「既存のプロジェクトは通常通り進行している」と直近の日経クロステックの取材で明らかにした。2022年3月、ELEKSはポーランドのクラクフに新オフィスを設け、欧州顧客向けのパートナー事業を強化している。さらに5月か6月、クロアチアにも2拠点の開設を予定する。