半導体不足が長期化するなか、半導体のサプライチェーン(供給網)を構成する商社や装置メーカーが安定供給に向けた孤軍奮闘を続けている。商社の営業マンは顧客メーカーとの交渉に走り回り、装置企業の担当者は部材調達や設計変更に力を入れる。あらゆる産業になくてはならない半導体だが、それを生産し流通させる現場にスポットライトが当たることは少ない。知られざる現場の努力と挑戦に記者が迫った。
自動車部品メーカーと連日交渉
1次自動車部品メーカー(ティア1)に部品を供給する国内のある半導体商社は2020年末以降、車載半導体の供給を巡る部品メーカーとの交渉が急増した。自動車メーカー側からは「これだけの台数を生産したい、なんとか半導体を調達できないか」との目標を突き付けられる。しかし、半導体メーカーの生産能力には限界があるため、商社側の営業マンは「これだけしか確保できません」と事情を伝え、現実的な妥協点を探る日々が続く。
自動車メーカーはこれまで在庫を最低限しか持たない「カンバン方式」で利益を高めてきた。一方、半導体の製造には半年ほどのリードタイムがかかり、急な需要変動に対応しにくい。それでも自動車メーカーの購買担当からは「今すぐ持って来てほしい」という要求が続いた。ある営業マンは「顧客に理解してもらうため、朝から夜まで調整で走り回った」と振り返る。
高級車に使う半導体や部材は高性能なものが多く、ブランドを維持するために自動車メーカーも安易な部材の共通化はできない。メーカー側も最終的に一部の車種で減産が避けられないことを悟り、苦渋の決断を下すに至った。最近では自動車メーカーのなかにはカンバン方式を見直し、部材の長期契約にも応じる会社もでてきた。
ある商社役員は「物不足で自動車業界のヒエラルキーが変わってきた」と述べる。自動車メーカーは裾野の広いサプライチェーンを持ち、生産が止まればこの“城下町”を維持できなくなる。これまでの無理な生産体制の見直しが進みそうだ。