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 新型コロナ禍において「Skin-hunger(スキンハンガー、皮膚接触渇望)」という言葉が再び注目を集めていると、NTTコミュニケーション科学基礎研究所上席特別研究員の渡邊淳司氏が教えてくれた。もともと子供の成長過程での触れ合いなど一部領域で使われていた言葉がいま、感染対策で人と会いにくい状況が続く中、人に触れることへの憧れを指す文脈で使われるようになったのだという。触覚や触感に関する「触」技術をうまく使うことが、人の心身が良い状態であることを指す「ウェルビーイング」の向上に役立ちそうだ。

選手支える、触覚通信でリモートハイタッチ

 「人と会えなくなってメンタルヘルスの問題も出てくる中で、触覚の技術の活用をいま一度考えてみようという機運が高まってきた」と渡邊氏は言う。

 例えばスポーツの応援。振動などの触覚情報を遠隔地に伝える触覚通信の研究に携わる渡邊氏らはNTT西日本などと2020年9月、無観客で開催された第73回全日本フェンシング選手権決勝戦で、振動を伝えることで遠隔地の人同士が手を合わせるような感覚を再現する「リモートハイタッチ」を行った。

 振動するボードを張り付けたディスプレーを使って、テレビ会議システムで会話中に両者が同時にボードに触れることで、あたかもハイタッチをしているように感じる。緊張高まる試合前のひととき、会場にいる選手と遠隔地の家族がリモートハイタッチ。やってみて、「力になった」とある選手は言う。

遠隔地の家族と会場にいる選手が画面越しにリモートハイタッチをした
遠隔地の家族と会場にいる選手が画面越しにリモートハイタッチをした
出所:NTT西日本
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光、音、触覚刺激から成るコンテンツ

 ウェルビーイングと「触」技術の可能性をもっと探ってみたいと21年4月末、渡邊氏とともに六本木ヒルズ森タワー(東京・港)へ向かった。光、音に加えて、全身に触覚提示をする長椅子型装置を使うコンテンツ「Synesthesia X1-2.44 Hazo(シナスタジア X1-2.44 波象)」を体験するためだ。触覚提示とは、振動などで疑似的に触覚をつくり出すことを指す。

長椅子型装置「シナスタジア X1-2.44」(中央)は、六本木ヒルズ森タワー52階のガラス張りの空間に設置された小部屋の中にある
長椅子型装置「シナスタジア X1-2.44」(中央)は、六本木ヒルズ森タワー52階のガラス張りの空間に設置された小部屋の中にある
撮影:日経クロステック
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 「シナスタジア X1-2.44」は、2台のスピーカーが付いた、44個の振動子から構成される長椅子型装置である。この長椅子型装置に全身をあずけるようにして座り、ヘッドホンを装着、目を閉じて、約11分間の光、音、触覚刺激によるコンテンツを体験する。

振動子で構成される長椅子に座ることで、背中から足や腕まで振動を感じる
振動子で構成される長椅子に座ることで、背中から足や腕まで振動を感じる
撮影:日経クロステック
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シナスタジア X1-2.44 波象を体験中の渡邊氏。振動している振動子の部分が光って見える
シナスタジア X1-2.44 波象を体験中の渡邊氏。振動している振動子の部分が光って見える
撮影:日経クロステック
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 目を閉じて体験するので映像は、まぶた越しに光の強弱として感じる。電子音や自然の音などで構成される音は360度全方向から聞こえる。その上で44個の振動子がバラバラに振動して、背中、足や腕の全体で触覚刺激を感じる。これらが混ざった約11分間の体験には、あたかも映画や音楽を鑑賞しているかのように、ストーリーが感じられた。