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 人工衛星の開発を手掛けるアクセルスペース(東京・中央)が、小型人工衛星の「量産化」に挑む。一般的に2年程度を要すると言われる小型人工衛星の納期を、1年未満に短縮するという。2022年4月26日、短納期での小型人工衛星の開発を含め、打ち上げや運用、保険手配などをパッケージ化したサービス「AxelLiner」を発表した際、同社代表取締役の中村友哉氏が明らかにした。

アクセルスペース代表取締役の中村友哉氏
アクセルスペース代表取締役の中村友哉氏
(出所:日経クロステック)
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 光学カメラやSAR (Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)*1を活用した小型人工衛星群「コンステレーション」による地表観測の精度が向上。自然災害の被災地や戦場などを定期的に観測できるようになり、小型人工衛星の需要が高まっている。最近では、ロシアに侵攻されたウクライナの都市を人工衛星から撮像した写真が一般紙の紙面をにぎわせているので、目にした人も多いだろう。

*1 SAR 電波レーダーを使って24時間昼夜を問わず、悪天候でも地上を観測(撮像)できるシステム。高速で軌道を飛ぶ衛星から発した電波で地表を照射し、その反射波で地表を撮像する。雲を透過する帯域のマイクロ波を使うので、天候に左右されず撮像可能。可視光や赤外線の反射光を撮影する光学衛星と異なり、地表に日の差さない深夜でも地表を撮像できる。
SAR衛星の観測手法
SAR衛星の観測手法
(出所:日経クロステック)
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 ニーズは高まっているものの、発注者が人工衛星で実現しようとするミッションはその発注者によって異なり、人工衛星は特注になるのが一般的だ。コンステレーションがいくら多数の人工衛星から成るといっても、今後増えると予想されているのは数十基程度のコンステレーション。この規模では、製造の自動化を図るのにも限界がある。

 そこでアクセルスペースは、一部機能の汎用化によって、コスト削減と短納期を実現しようとしている。人工衛星は、姿勢や軌道の制御、通信、熱構造、電源など基盤機能を担う「バス系」と、観測機器や通信機器など軌道上での任務を担う「ミッション系」とに分けられる。このうちバス系を汎用化して、「量産化」につなげる考えだ。年間50機以上の生産能力を目指す*2。

*2 人工衛星の質量が130kg程度までの「AxelLiner Bus-N」と、同200kg程度までの「AxelLiner Bus-H」をラインアップする

 同社は21年3月、光学観測衛星「GRUS(グルース)」を4基同時に打ち上げている(22年5月時点では計5基を打ち上げ)。この時、「一品生産」ではなく4基同時の「量産」を経験。その時に得た知見を生かしている。

2021年3月に打ち上げられた小型SAR衛星GRUS-1B、1C、1D、1E
2021年3月に打ち上げられた小型SAR衛星GRUS-1B、1C、1D、1E
(出所:アクセルスペース)
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