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 「DX(デジタルトランスフォーメーション)の核となるべきものは変革。DXの本質を捉え、実践するために役立つと確信している」。ビジネス変革のための方法論「匠(たくみ)Method」についてこう語るのは、萩本順三 匠BusinessPlace会長。匠Methodの生みの親だ。

  DXをはじめ変革や新規事業の開発を目的としたプロジェクトでは、目指すゴールが見えにくかったり、正しく目的を確定できなかったりするケースが少なくない。匠Methodは変革の本質を成す「価値」に注目することで、ビジネスを変革する狙いや方向を正しく見定めて参加メンバー全員で共有し、実践するための計画を策定できるようにする。25年以上、メソドロジスト(方法論作成者)として活動を続けてきた萩本会長がこれまでの経験やノウハウに現場で得た気づきをブレンドさせて作り上げた、ユニークな日本発方法論といえる。

 萩本会長は2009年に匠BusinessPlaceを設立し、匠Methodに関する教育・研修や、同方法論を活用したコンサルティングサービスを提供している。匠Methodは知る人ぞ知る存在だが、萩本会長が把握しているだけで500以上の適用例があるという。「方法論自体はオープンなので、実際にはもっと多いはず」(萩本会長)。

萩本順三 匠BusinessPlace会長
萩本順三 匠BusinessPlace会長
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 こうした活動から得た経験や気づきを基に、10年以上にわたり匠Methodを進化・発展させてきた。DX時代の新たなソフトウエアエンジニアリング体系「SE4BS(Software Engineering for Business and Society)」でも、匠Methodは主要な要素の1つに位置付けられている。SE4BSは既存のソフトウエア工学やアジャイル開発の知見を再整理するとともに、領域をより広げていく活動で、2018年ごろから萩本会長に加えて早稲田大学の鷲崎弘宜教授、永和システムマネジメントの平鍋健児社長らが進めている。

 匠Methodに限らず、方法論(メソドロジー)は正しく教えられる人がいないと広がりにくい。まして「日本発の方法論は、本当に効果があるのかなどと色眼鏡で見られがち」(萩本会長)。それでもDXをはじめ「チェンジが求められる時代こそ、この方法論の出番」と萩本会長は信じる。「多くの人に受け入れてもらえるよう、説明する言葉ややり方などを含めて、もっと洗練させていきたい」と決意を新たにする。

「価値のデザイン」から始める

 匠Methodの大きな特徴は、プロジェクトを「価値のデザイン」から始めることだ。価値というとやや抽象的だが、匠Methodでは利用者を含むプロジェクトのステークホルダー(利害関係者)がうれしいと感じること(魅力)を指す。自動車であれば、デザインや乗り心地、価格など利用者が「いいな」と感じる点が価値となる。

価値創造サイクル
価値創造サイクル
(出所:萩本順三氏の資料を基に日経クロステック作製)
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 価値をデザインし見える化したら、次に「要求」を見える化する。要求はプロジェクトの課題であり、価値を実現するためにやりたい、またはやるべきことを明らかにするのが狙いだ。

 さらに「業務」の現状と理想を見える化する。ここで価値と要求を踏まえて業務をどう改善していけばよいかが見えてくる。そのうえで 業務改善に向けた行動計画である「活動」を見える化する。これら一連の活動を「価値創造サイクル」と呼ぶ。

 価値、要求、業務、活動のそれぞれは、必要に応じて行きつ戻りつしながら進める。匠Methodでは、要求なら「要求分析ツリー」、活動なら「ゴール記述モデル」といったモデル図を用意しており、これらを道具として活用する。

 こうした価値創造サイクルを通じてプロジェクトの価値やビジョン、コンセプトなどを明確にしておかないと、変革をうたいながら既存の慣習から抜け出せないままになってしまう恐れがある。価値創造サイクルをプロジェクトの実践サイクル(PDCA)の前に実施することで、変革の狙いや方向を正しく確認し実践できるわけだ。