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 NTTは2022年5月12日、社長の澤田純氏が代表権のある会長に就き、副社長の島田明氏が社長に昇格する人事を正式発表した。同年6月の株主総会後に正式に決定する。NTT東西も社長交代を発表し、NTT東日本社長にはNTT副社長の渋谷直樹氏、NTT西日本社長にはNTTリミテッド副社長の森林正彰氏が就く。

NTT社長の澤田純氏(左)と新社長に内定した副社長の島田明氏(右)
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NTT社長の澤田純氏(左)と新社長に内定した副社長の島田明氏(右)
(撮影:日経クロステック)

 筆者は、澤田氏が社長在任のこの4年、前半は日本経済新聞社の通信担当記者として、後半は日経クロステックの副編集長として、澤田氏を何度も取材してきた。

 海外事業の再編に始まり、IOWN構想の発表、NECとの資本業務提携、NTTドコモの完全子会社化、そして直近のNTTデータによるNTTリミテッド統合など、澤田氏の繰り出す大胆な改革に驚かされ続けてきた4年間だった。

 保守的ともいわれるNTTグループの空気を一新し「破壊者」とも呼ばれた澤田氏は、大胆なビジョンとスピード感を持った実行力、そして強じんな精神力を持った経営者だったと改めて感じている。

サプライズだったNTT西日本社長人事

 澤田氏は、社長退任を発表した5月12日にも最後のサプライズを用意していた。

 「まったく予想していなかった。驚きの人事だ」。

 NTT関係者が異口同音に語ったのは、NTT西日本の社長にNTTリミテッド副社長の森林氏が就くという人事である。

NTT西日本新社長に内定したNTTリミテッド副社長の森林正彰氏
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NTT西日本新社長に内定したNTTリミテッド副社長の森林正彰氏
(撮影:日経クロステック)

 NTT東西は、NTTグループの長男次男と呼ばれ、グループ内でも序列が高いとされる。社長人事にも重きが置かれ、東西でバランスを取るために、NTT東日本の社長が技術系の場合、NTT西日本の社長は事務系といった具合に、たすき掛けが不文律として残っていた。

 事前にNTT東日本の次期社長に技術系の渋谷氏が就くという報道が出た際、業界内でNTT西日本の次期社長として有力視されていたのは、事務系のNTT西日本副社長の昇格だった。

 そんな大方の予想を裏切り、NTT西日本社長には技術系の森林氏が就くことになった。NTT東西社長にいずれも技術系が就くというのは今回が初めてだ。しかも森林氏はNTTコミュニケーションズ(NTTコム)出身。「この20年で日本にいたのは6年だけ」(森林氏)という海外事業のスペシャリストである。ドメスティックな事業が主のNTT西日本社長には似つかわしくない経歴である。

 森林氏自身、5月12日の会見で「おそらく我々の社員も想定しなかったのでは。みなさんのほうでも誰だろうこの人?という感覚ではないか」と自虐的に語った。

 NTT関係者の多くは、澤田氏がグループ内に残っていた最後の不文律を「破壊」し、自らの信頼が厚い人材を社長に充てたと見る。森林氏は澤田氏の出身であるNTTコムの人材であり、澤田氏が力を入れてきた海外事業の再編をリードしてきたからだ。

 もっとも西日本地域ではこれから25年の国際博覧会(大阪・関西万博)など、国際イベントがめじろ押しだ。森林氏の起用は万博への対応という見方もある。

 NTTは今回、女性の役員比率も3割まで高めている。いずれにせよ「官僚以上に官僚的」と呼ばれてきたNTT人事は、澤田体制の4年で、過去のものになったといえる。