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 コンピューターによるシミュレーションは、常に前提条件が問われる。前提条件、つまり計算の基となる初期条件次第で計算結果が変わるからだ。くしゃみやせきのシミュレーションでも、口から出た飛沫が1.8mで落下するという計算もあるし、2m以上飛ぶという結果のものもある。結果だけ聞いても、どっちを信用してよいか分からなくなってしまう。

(出所:アンシス)
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(出所:ソフトウェアクレイドル、エムエスシーソフトウェア)
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コンピューターによるくしゃみやせきのシミュレーション

 ところが、新型コロナウイルス感染症の広がりをきっかけに計算された最近のシミュレーションでは、結果とともに前提条件をはっきり示す例が増えている(関連記事)。前提条件と計算結果を突き合わせて見ると、一見異なった結果のシミュレーションのそれぞれに納得できるところが見つかる。さらに「前提条件をこう変えれば、結果がこう変わるのでは」という想像が働く。

 前提条件の1つが飛沫の大きさだ。例えば、くしゃみの飛沫が1.8m程度で落下するという結果が得られた計算では、飛沫の直径を数十から数百μmとして計算していた。2m以上飛ぶとする結果の計算では、飛沫の直径は1μmだった。なぜこんなに前提条件が違うのかと調べると、どちらもそれぞれ一定の現実を反映していると分かる。

 飛沫は直径5μmを境に、それより小さいものは「飛沫核」と呼んで区別する。飛沫は重力によって落下するが、飛沫核ほど小さくなるとブラウン運動、すなわち空気中で気体分子に突っつき回される効果の方が重力よりも支配的になって、落下しなくなる。

 では、飛沫と飛沫核のどちらを採用すべきなのか。飛沫は唾液などからなる微粒子であり、空気中ですぐに乾燥して径が小さくなり飛沫核が残るが、ウイルスは乾燥するとすぐに感染力を失う、される。だから感染力のある大きな飛沫の動きが重要だ、とするのが前者の計算の立場だ。一方で湿度が高い密室など、飛沫核が感染力を失わない場合があるとする指摘がある。この立場に立つなら、後者の計算もまた妥当といえる。