デジタル庁が注力する政策の1つとして取り組んでいる、法人や国土など日本の公的基礎情報をデータベース化する「ベース・レジストリ」の整備事業。このうち事業所のデータ整備方法を検証するパイロット事業を中断し、デジタル庁は2022年3月下旬から順次、システム調達の取りやめを官報などで告示した。
なぜ中断の判断を迫られたのか、その原因を報じた日経クロステックの記事は読者から大きな反響があった。経緯を取材した記者にとっては、その反響は予想外でもあった。TwitterやFacebookなどソーシャルメディアで記事への感想を見ると、「デジタル庁が早い段階で『撤退』を判断したのは素晴らしい」「判断が早かったので軽微な費用負担で済んだ」といった肯定的な意見が多かったからだ。
パイロットの初期段階で中断を決断したことは、確かに無駄なシステム投資を避ける点で好ましい。ただし事業本来の目的を考えれば、「これからどう打開するか」に取り組んでこそデジタル庁は本来の役割を果たせると記者は考えている。
データ整備の中断は、いわば「現状はデータ共通化やデジタル化に向かなかった」と認識したにすぎない。現状をどう変えればデジタルで行政目的をより効率よく達成できるようになるか。そのデザインを描いて他省庁に働きかけることが、行政DX(デジタルトランスフォーメーション)の司令塔として強い権限を持つデジタル庁が果たすべき役割のはずだ。
調達額825万円は例外的な低価格
まず、システム調達の損失が「軽微」で済んだことについては、幸運な面がある点は指摘しておきたい。中断する前に調達していた「事業所ベース・レジストリの公開サイト」用システムは、ベース・レジストリ関連のパイロットシステムでは例外的ともいえる低価格で調達できたからだ。受注したユー・エス・イー(USE)の落札額は825万円(税込み、以下同)で、開発をほぼ終えている。
同システムの入札に参加したのはUSEとNTTデータの2社で、NTTデータの提示額は9346万7000円だった。USEは「データ公開サイトのフレームワークなど、自社で開発していた既存技術がうまく生かせた」(同社の公共事業部門)ことで低価格を提示できたという。デジタル庁が設定した予定価格は非公開だが、USEの参加がなければNTTデータの提示額で契約した可能性がある。
実際にベース・レジストリ関連での他のパイロットシステムは数千万円の規模で調達しているケースが多い。例えば、2021年8月に調達した住所データを標準化する「アドレス・ベース・レジストリ」などの2案件は主に大手ベンダーが入札に参加し、落札額は8448万円と9349万4500円だった。2件ともにNTTデータが落札している。運用保守や機能拡張など他のパイロットシステムも含めて、1案件あたり5000万~1億円強が大手ベンダーの入札する価格相場になっていた。
現状のまま霞が関のデータ共通化は限界
デジタル庁にとっての大きな課題は、霞が関の現状を是認したままデータの共通化や業務をデジタル化するだけでは、政策目標の達成に限界があることが見えた点だろう。
ベース・レジストリの整備はデジタル庁が発足する前から目玉政策の1つに掲げており、進んでいるものもある。様々な行政分野で使える住所データを整備する「アドレス・ベース・レジストリ」である。実際に整備を進めているデータはパイロットサイトでこのほど公開が始まった。
作成したデータは、地方自治行政で用いる住所や、国土基本図で国土地理院や国土交通省が整備した住居表示用の住所、法務省が土地登記などで使う「地番」、日本郵便の「郵便番号」などを寄せ集めて、1つのデータフォーマットで参照できるようにした。現在は民間などから意見を募集している段階だが、多目的に使える一元的な住所データは実現できそうだ。