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 クルマの安全性や利便性の向上、完全自動運転の実現に向けて、再び注目を集めているのが、「C-V2X(Cellular V2X、セルラーV2X)」である。C-V2Xは、携帯電話(セルラー)用の無線通信回線を使ってV2X通信*1を行うための標準規格。第5世代移動通信システム(5G)やモバイル・エッジ・コンピューティング(MEC)と組み合わせることで、冒頭の目標実現に貢献すると期待が高まっている。

*1 V2X(Vehicle to Everything)通信とは、車車間(Vehicle to Vehicle、V2V)や路車間(Vehicle to Infrastructure、V2I)、車両-歩行者間(Vehicle to Pedestrian、V2P)、車両-ネットワーク間(Vehicle to Network、V2N)など、車両と様々なものとの通信を指す。運転者や自車に搭載したセンサーには感知できない情報を外部から得られるため、安全性を向上でき、渋滞の改善も期待できる。

 MECを用いると、5Gだけではなかなか実現が難しかった低遅延を達成できる。それによって、車両側の情報処理に対する負荷や能力を低減できる可能性がある。

 MECは、携帯電話の基地局のそばにサーバーを置く。このため、インターネットを介して遠くのサーバーにアクセスする必要性がなくなり、低遅延にできる。5Gの持つ高速大容量通信という利点を、信頼性高く低遅延で活用できるようになる。すなわち、従来はリアルタイム性を重視して車両側で実行しなければならなかったような情報処理機能を、MECに移管することが可能になる。

 こうした点に目を付けた自動車メーカーの1つがホンダだ。同社は、米通信事業者のVerizon(ベライゾン)と共同で、5GとMECを用いたコネクテッド技術によるクルマの安全性向上について研究を進めている。

 両社は米ミシガン大学の協力の下で、5GとMECを使うと、歩行者/車両/道路インフラ間で高速通信は可能になるか、緊急のメッセージを伝えられるかなどを、3つのシナリオに沿って調査し、21年4月にその概要と結果を発表した。

 3つのシナリオとは、(1)交差点を横断する歩行者が建物に遮られて運転者から見えないケース、(2)近づいてくる緊急車両が見えずサイレンも運転者には聞こえないケース、(3)赤信号でも止まろうとしない信号無視の車両が存在するケース――である(図1)。

図1 ホンダとVerizonが実施した3つのシナリオに沿った調査の一例
図1 ホンダとVerizonが実施した3つのシナリオに沿った調査の一例
写真は、交差点を横断する歩行者が建物に遮られて運転者から見えないケース。(出所:ホンダ)
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 (1)では、交差点に取り付けたカメラが5Gネットワーク経由で情報をMECに中継し、MECが歩行者を検出し、運転者に警告メッセージを送信する(図2)。また、車両が道路利用者の正確な位置を特定する。(2)では、MECが緊急車両からのメッセージを受信し、近くの車両に警告メッセージを送る。(3)では、交差点のカメラのデータからMECが車両を検出し、交差点に接近する他の車両に信号無視の車両が存在するとの警告メッセージを送信する。

図2 運転者に対する警告メッセージの表示
図2 運転者に対する警告メッセージの表示
(出所:ホンダ)
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 ホンダによれば、この調査では、緊急メッセージを伝えられる可能性を確認でき、車両側からMECに人工知能(AI)機能を移せる可能性が認められたという。