「むしろ悪用が増える」と懸念
デジタル市場競争会議の最終報告書が挙げた問題の1つが、広告料を不正に得る詐欺手法の「アドフラウド」。ボット(自動化プログラム)などを使って詐欺用サイトに広告を大量に表示させ、適切に閲覧されていないにもかかわらず広告料を得る手法だ。同会議はアドフラウド対策として、取引透明化法の適用を前提に、アドフラウドが起きた回数や内容、事業者側がアドフラウドと判定した基準といった取得可能な情報や取得方法を分かりやすく開示するよう求めている。
ただ、肝心のネット広告事業者側はアドフラウド対策に懐疑的だ。ある広告プラットフォーム事業者は最終報告書の中で、配信した広告のうちどれがアドフラウドだったのかといった結果や判定基準を公開すると、それらの情報を手掛かりに悪質業者が広告配信の仕組みをリバースエンジニアリングしてかえって悪用されると指摘。自社による検知がさらに難しくなるため、開示は困難と述べている。
同会議も認めるように、広告事業者側が策を講じれば悪質業者もさらに巧妙な手口を編み出すといった具合に、いたちごっこの状態になっているわけだ。果たして法の網を効果的にかぶせることができるのか、記者は懸念している。
そもそも品質は高まるのか
規制に向けた技術や法制度によって、そもそもネット広告の品質は高まるのか。これがもう1つのモヤッと感だ。
最終報告書は消費者の不満や事業者の不利益が見逃せないとして、ターゲティング広告をはじめとする広告の質を高める措置を講じるべきとした。具体的にはネット広告事業者が取得するデータの種類や使い方、オプトアウトの手段などを明示するよう求めた。
ここで難しいのが、そもそもネット広告の品質とは何かという点だ。例えば消費者の大半がオプトアウトしたりネット広告事業者が取得できるパーソナルデータが乏しくなったりして既存のターゲティング広告が機能しなくなれば、広告の品質は高まるのか。DataSignの太田社長が体験した「ATT全拒否」の結末は、この問題の難しさを象徴している。
ネット広告の業界団体、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)は2021年3月、ネット広告の利用者意識調査の結果を発表した。「同じ広告が何度も表示されるのが嫌」「自分が見た企業の商品の広告ばかりで気持ち悪い」といったネガティブな意見の一方で、ターゲティング広告に期待する声もあったという。「自分に関連する内容ではあるので、ぴったり合えば自分で探す手間が省ける」といったものだ。
「ターゲティング広告を嫌悪する意見があるのはもちろんだが、パーソナルデータをうまく使って精度を向上したり仕組みの理解を促したりといった対策を講じれば、受容される余地はあるのではないか」(JIAA)。業界のポジショントークの側面はあるものの、ぴたりと合う内容の広告なら消費者としても納得できる可能性は高い。
ネット広告の浄化に向けて、業界側に是正すべき点が多いのは間違いない。行政には実効性のある法規制の枠組みを期待したい。その上で消費者1人ひとりが自分自身のデータの使われ方に関心を持ち、理解を深める必要があるだろう。