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 米アップルが2021年4月末に提供を始めたiOS向けの新機能「App Tracking Transparency(ATT)」が議論を呼んでいる。消費者のプライバシー保護を目的とした新機能で、利用者はiOSの設定画面でアプリ利用状況のトラッキング(追跡)可否をアプリごとに設定できる。iOS14.5以降をインストールした利用者が対象のアプリを起動すると、利用状況データの取得を許可するかを問う画面が表示されるようになった。

 アップルは利用者のプライバシーを利用者自身が管理できるようにすべきだとの立場。一方、広告料が収益の柱である米フェイスブックが反対を表明するなど賛否が分かれている。

アップルの追跡管理機能、「全部拒否」の結末

 アップルのATTは消費者自身にも、プライバシー管理の難しさを突きつけた。消費者に嫌われる広告の代表である「ターゲティング広告」は、ATTを使えば拒否できる。だが果たしてそれがハッピーな結果につながるのか、という点だ。

 ターゲティング広告は利用動向を基にサイト閲覧者の趣味や嗜好に沿った内容を表示するもの。消費者庁の調査によれば、ターゲティング広告を煩わしいと感じる消費者は7割に上るという。8割の消費者が、事前に設定を変えられるならターゲティング広告を「外したいと思っている」と回答した。

 ではターゲティングを拒否するとどうなるか。企業向けのデータ管理サービスを手掛けるDataSignの太田祐一社長は、試しにアップルのプライバシー管理機能ATTを「全部拒否してみた」。iOSの設定画面で、導入済みの各アプリについて全て「拒否」に設定。するとATTの拒否が原因とは言い切れないものの、それまでとは全く違う種類の広告が表示されるようになった。内容は「かなりきわどいもの」(太田社長)で、率直に言って下品なものだったという。「利用者がトラッキングを許可するよう仕向けるため、わざとひどい内容の広告を配信しているのではないかとすら思えた」。

 真偽はさておき利用者が従来のターゲティングを一切拒否すれば、野放図な広告が表示される可能性は高まる。仮に利用者の趣味や嗜好に関係なく、1インプレッション(表示)当たり最も高い単価を付ける広告が必ず落札されるようになれば、理屈の上では扇情的な内容でクリックを誘う広告ばかり出てくるようになりかねない。

 消費者の不満を受ける形で、ネット広告の浄化に向けた議論が加速している。政府のデジタル市場競争会議は2021年4月27日、「デジタル広告市場の競争評価」に関する最終報告を公表。取引内容を第三者が計測できるようにするなどネット広告事業者へのルール整備を進めるため、巨大IT企業を規制する「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(取引透明化法)」にネット広告を追加する方針を示した。

 具体的にはネットサービス事業者の中でも特に影響力が強く是正すべき事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」と指定し、規制の対象にする。事業を監査し、独占禁止法の恐れがあれば対処を求める。取引透明化法に基づいてルール整備を進めるほか、独占禁止法など関連法を厳格に運用するとしている。