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 「日本の『技術・家庭』力は相当高い。店頭にある新型コロナウイルス対応の消毒液スタンドで足踏み式の仕組みをお店のオーナーが木工で手作りしたり、マスクが足りないときに自分で作ってしまったり、ボタンが取れたから自分で付け直したり……。こういうことが『情報』においても起こるのかな」。プログラミング教育の普及・発展を目指すNPO、みんなのコードの利根川裕太代表理事は情報教育についてこんなふうに話す。

 2022年4月、高校の情報科目が大幅に刷新され「情報I」が必履修科目になった。高校の情報I必履修化によって、小学校でのプログラミング教育必修化(2020年度から)、中学校でのプログラミング教育の拡充(2021年度から)と続く一連の学校教育課程における情報教育の枠組みが出来上がったことになる。

 新しい学習指導要領の下、2022年度入学の高校生は全員が情報I、具体的には「情報社会の問題解決」「コミュニケーションと情報デザイン」「コンピューターとプログラミング」「情報通信ネットワークとデータ活用」といった内容を学ぶ。「技術・家庭」力のような力をもった人材は生み出されるのか。

盛り上がりを見せる情報教育関連のイベント。プログラミング教育や情報Iに関連する展示も
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盛り上がりを見せる情報教育関連のイベント。プログラミング教育や情報Iに関連する展示も
写真 2022年5月11日から13日に開催された「第13回 教育ITソリューション EXPO」の展示の様子(撮影:日経クロステック)

 IT人材不足が叫ばれる中、情報教育はIT人材輩出のベースとなるものであり、重要性は増す一方だ。文部科学省の高等学校情報科担当調査官として「情報科」の新学習指導要領改訂に携わった京都精華大学の鹿野利春教授はこう話す。「情報は国民的素養。授業で全員が学ぶことに意味がある」。

 2025年の大学入学共通テストの出題教科・科目には「情報・情報I」が追加され、既に東京大学や大阪大学などが情報Iを利用科目とすることを発表している。専門人材、研究者を育てる大学教育においても情報Iが基礎として不可欠ということだ。

中学生が自動車のエンジンを学ぶ時代があった

 30年以上前になるが筆者が中学生の頃、「技術」の授業をする教室には自動車のガソリンエンジンの模型が鎮座していた。エンジンの仕組みを学ぶ時代があったのだ。ピストンを上下運動させて動力とする「吸気」「圧縮」「膨張」「排気」といった4サイクルエンジンの行程は今でも記憶に残っている。こうした教育が自動車産業の裾野を広げ、日本の主要産業へと押し上げる素地となったと言っても言い過ぎではないだろう。ただ時代は変遷する。学習指導要領の改訂もあり2002年以降、中学の技術の教科書から4サイクルエンジンに関する記述はなくなったという。

 2022年、世界の自動車メーカーの時価総額ランキング1位は米Tesla(テスラ)である(2022年3月時点)。販売台数では依然、日本のトヨタ自動車やドイツのVolkswagen(フォルクスワーゲン)などがテスラを凌駕(りょうが)するものの、電気自動車(EV)専業、脱炭素というビジョンや情報技術を強みとするテスラについて、投資家は他の自動車メーカーよりも高く評価しているということだ。

 テスラの創業者であるイーロン・マスク氏のような変革人材をいかに輩出するかといった議論にはここでは立ち入らないが、少なくとも学校教育において、産業との関わりが深い教科である「技術」の中身が変わってきたこと、その変わった部分に「情報」が新たに入ってきたことを象徴する出来事ではある。

 いまやあらゆる業種の企業が取り組むDX(デジタルトランスフォーメーション)の「デジタル」のベースには情報教育が不可欠であり、プログラミング教育や「情報I」が必履修化されたのは時代の必然と言える。ただし、情報技術の変化のスピードは速い。高校の教科である情報も2003年に「情報A」「同B」「同C」という科目として選択必履修になったものの、その形は学習指導要領の改訂のたびに変化している。