電車・バス・タクシー。都会で生活をしていると、さまざまなモビリティーを乗り継ぐことが多く、長い時間を車内で過ごす。時間の使い方は人それぞれだ。スマートフォン(スマホ)を操作したり、本や新聞を読んだり、窓の外を眺めたり。1つ言えることは、人々の視線の先にビジネスチャンスが転がっているということだ。
この観点で記者が注目しているのが「透明ディスプレー」である。スイッチ1つで、透明なガラスに広告や生活情報など多様なコンテンツを映し出す。透明ディスプレーの技術によって、これまで“ただの透明な板”が当たり前だった窓(ウインドー)が、新たなビジネス領域に変わる可能性がある。
透明ディスプレー事業に参入を目指す企業は多い。そして、その多くがクルマへの適用を目標に掲げている。
例えばジャパンディスプレイ(JDI)は、2022年にクルマのウインドーへの適用を視野に開発を進めている。まずは、サイドウインドーに適用し、2030年ごろにはフロントウインドーに搭載を広げていく方針だ。
AGC(旧:旭硝子)は、透明ディスプレーの技術を外部調達し、2023年をめどに列車のウインドーへ適用する。同時に、クルマへの適用も検討していく。
MaaS車両のウインドーに広告やコンテンツ表示
先に搭載が進みそうなのは、乗用車よりも次世代の移動サービス「MaaS(Mobility as a Service)」向けの車両である。トヨタ自動車が2020年に実証実験の開始を目指している「イーパレット(e-Palette)」がその代表格だ。車両の所有が個人から企業に移り、運行事業者側としては、透明ディスプレーを使った広告ビジネスなどに期待をかける。
MaaS向けの車両は、自動運転の技術を搭載して、トラックのように配送に使ったり、バスのように人を運んだりする。人を運ぶ際には、快適な車内空間の実現はもちろん、事業者側から見ればウインドーは乗客とのインターフェースになり得る。透明ディスプレーを使ったウインドーで広告を表示したり、エンターテインメントやスポーツ系のコンテンツを表示したりすれば移動に新たな価値を上乗せできる。もしかしたら、「あのアイドルの映像が見たい」といった理由で、MaaSのサービス事業者を選ぶ人が出てくるかもしれない。