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 ITは新型コロナウイルス感染の拡大を防ぐ有効な武器になる。しかしITを有効な武器として使って戦いに勝利できたとは言いがたい。筆者は3つの克服すべき問題が明らかになったと考える。

 筆者はコロナ禍の最前線となった現場でITを武器に戦った関係者に取材した。内容は新型コロナ「デジタル戦記」としてまとめた。

 新型コロナは人々が物理的に接触するリアルな空間でしか移動できない。オンライン化などによってリアルな空間にITが生みだすサイバー空間を融合して、リアルな空間に縛られてきた人間の営みをサイバー空間で再構築できれば戦いは有利に進められる。

「データの利用ルール」が伝わらず

 リアルとサイバーの間を結び付けるのは識別子(ID)である。IDは人や物などを特定する重要な仕組みだ。ITがどんなに発達しても、ITの利用者が間違いなく本人なのかどうかを確認できるIDは欠かせない。日本国内に住む人を最も多く網羅したIDは12桁の個人番号(マイナンバー)である。

 ところが、新型コロナと戦う最前線であるはずの保健所ではマイナンバーが使われていなかった。保健所の職員は医師が保健所にFAXで送る「新型コロナウイルス感染症発生届」から感染者の名前や住所などを読み取って、それが正しいかどうか医療機関に電話して確認するアナログな作業に夜中まで追われていた。医師によって発生届に記載された感染者の住所の半分は間違っていたからだ。

 なぜ職員はアナログな事務作業を強いられていたのか。理由はITで個人情報などを扱う「データの利用ルール」が現場に伝わっていなかったからだ。このことが新型コロナと戦う最前線の足かせの1つになっていた。

 感染症法は自治体ごとの住民基本台帳をネットワーク化した「住基ネット」や、国内に住むすべての住民に付番したマイナンバーを利用して個人情報を扱う規定を準用すると定めている。その上で行政機関が住基ネットやマイナンバーを利用する場合、法令でどんな事務でどのような目的に個人情報を利用できるか限定列挙している。

 個人情報の「保護」と「活用」は常に裏表の関係にある。保護ルールが徹底していれば活用の道も広がるからだ。限定列挙された目的などの範囲で利用できると分かれば、ITを武器にデータを活用した戦いが可能になる。

 保健所が住基ネットを利用できれば、感染者の氏名で検索して正しい住所を把握できる。マイナンバーを利用できれば、庁内連携や他の自治体との情報連携によって住民がどの健康保険などに入っているかも即座に分かる。所得情報を基に公費負担額なども決められる。保健所の事務は大幅に効率化できる。

 みなと保健所では港区役所の情報システム部門でマイナンバーに詳しい職員が自ら手を挙げて応援に加わった。政府のマイナンバー担当者や弁護士と連携して、住基ネットやマイナンバーを扱える端末を手配して庁内手続きを進めた。その結果、みなと保健所は事務員が医療機関に電話で問い合わせる手間を大幅に減らせた。

 新型コロナと戦う最前線である保健所にデータ利用ルールが伝わらなければ、ITを武器に戦える環境は整わない。みなと保健所はいち早くルールを確認して模範となる戦い⽅を⽰した。

東京・港区にある「みなと保健所」。他の保健所からマイナンバーなどを利用した事務効率化の方法について問い合わせも寄せられたという
東京・港区にある「みなと保健所」。他の保健所からマイナンバーなどを利用した事務効率化の方法について問い合わせも寄せられたという
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