全2197文字
PR

 日本企業で品質不正の発覚が続いている。品質不正を起こすくらいなら、「すみません」と頭を下げて本当のことを報告すべきではないだろうか。経営層/上司への忖度(そんたく)?黒字の死守?保身? 品質不正の背景には、さまざまな負のインセンティブ(誘因)がある。だが、品質不正が発覚した後で負うことになる罰則を少しでも想像できれば、全くもって割に合わない行為だと分かるはずだ。

 気になるのは、設計や製造の現場において、製品の品質(顧客仕様)を明らかに満たせていないのに、顧客への納期を死守しようとする姿勢である。

「供給責任」よりも不正を選ぶ?

 例えば、欧州域内のラジオなどの電波受信器に対する指令〔欧州無線機器指令(欧州RE指令)〕に適合しない製品を、「偽の適合宣言書」を作ってまで顧客である自動車メーカーに納品していた三菱電機。その理由について同社は「供給責任を感じていた」と言う。いわく、「それまでずっと自動車メーカーに納品し続けていた。それなのに、RE指令に対応する製品に設計し直すと、生産ラインを止めなければならない可能性があった」(同社)。それを恐れたと言うのである。

 不正に手を染めてまで顧客への供給責任を果たそうとする姿勢は、第三者から見ると理解不能だ。ビジネス上の力関係から、特に大口の顧客にはマイナスな情報は伝えられないということなのだろうか。だが、新型コロナウイルス禍に、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)対応、半導体不足……と、製造業の世界では想定を超えるトラブルや変化が以前に増して起こるようになっている。いつもいつも顧客に聞き心地の良いことばかりを言うわけにはいかないはずだ。

 良い情報は誰でも報告できる。むしろ、悪い情報でも包み隠さず正直に伝えられる関係こそが、真の信頼関係と言えるのではないだろうか。

期限遅れに直面したトヨタの設計者の仕事

 設計者として働いていたあるトヨタ自動車出身者は、発注先である自動車部品メーカーから「すみません」と実際に言われた経験があると言う。デンソーやアイシン精機(現アイシン)といった1次部品メーカー(いわゆるティア1)であり、同社のグループ企業(以下、協力会社)からである。担当する自動車部品を開発設計する段階において、トヨタ自動車との間で取り決めた期限を協力会社が守れなくなった。その報告を協力会社から受けたと言うのだ。

変更計画と再発防止策
[画像のクリックで拡大表示]
変更計画と再発防止策
トヨタ自動車ではトラブルが起きた際にこの2つを作成し、セットで上司に提出する。(作成:日経クロステック)

 この種のトラブルに直面したトヨタ自動車の設計者にとって、「マスト(必須)」の仕事は2つある。1つは、新車の発売日を遅らせないことだ。トヨタ車の発売が遅れると広範囲に大きな影響を及ぼし、いろいろな企業や人に迷惑をかけてしまう。従って、最終のデッド(締め切り)である量産開始日は必ず守ることを前提に、バックアップ態勢に臨まなければならない。

 具体的には、まず協力会社から詳しく状況を聞き出し、何が起こったのかについて、嘘偽りのない事実を把握する。その上で、問題の真因(問題を引き起こした本当の原因)を突き止めて「変更計画」を作成する。

 もう1つは、「再発防止策」を考えることである。期限遅れが再び生じないように、しっかりと手を打つのだ。