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 100年に1度の変革期と言われる自動車業界。その最大のテーマの1つとなっているのが、自動運転車の開発です。クルマが自律的に制御して走行する“ロボットカー”は、単にクルマという「製品」を革新するだけではありません。従来は運転免許の保有者に限られていた「顧客」を免許の非保有者へと拡大し、さらには新たなモビリティーサービスを生み出します。しかも、モビリティーサービスの対象領域は、金融・エネルギー・ヘルスケア・流通など自動車業界以外にも広がると期待されます。まさに、既存の産業の在り方を根底から変えるポテンシャルを秘めた技術、それが自動運転車の技術です。

求められる自動運転車ならではの安全技術

 もっとも、その実現に向けては、運転者の代わりにクルマを安全に自動操縦する技術を開発するだけでは済みません。第1に車室内での乗員の振る舞いが変わるからです。実際、2019年5月にドイツ・ダイムラー(Daimler)が発表した自動運転実験車「ESF(Experimental Safety Vehicle)2019」は、その点も考慮してさまざまな次世代の安全機能を搭載しています(図1関連記事)。

図1 次世代の安全機能を搭載したDaimlerの自動運転実験車「ESF 2019」
図1 次世代の安全機能を搭載したDaimlerの自動運転実験車「ESF 2019」
(出所:Daimler)
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 例えば、シート一体型のシートベルトやサイドエアバッグです(図2、3)。自動運転車になると、乗員は必ずしも進行方向を向いて座る必要はなくなります。実際、多くのメーカーがコンセプトとして示している自動運転車では、前席と後席を対面型に配置しているケースが少なくありません。

図2 ESF 2019のシート一体型シートベルト
図2 ESF 2019のシート一体型シートベルト
(出所:Daimler)
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図3 ESF 2019のシート一体型サイドエアバッグ
図3 ESF 2019のシート一体型サイドエアバッグ
(出所:Daimler)
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 ESF 2019では、人間が運転する場合も考えて搭載するステアリングホイールや足元のペダル類を、自動運転時は収納する方式を念頭に置き、有効に使える車室空間を広げるとともに衝突事故時にそれらにぶつかってけがをする危険性を排除するという思想で設計しています。さらに、手動運転時も自動運転時もエアバッグを有効に機能させられるように、運転席側も助手席側同様にダッシュボード内にエアバッグを収める方式を採用する他、手動運転時にステアリングホイールがエアバッグの展開の邪魔にならないように、同ホイールを従来の丸形ではなく長方形に変更しています(図4)。

長方形のステアリングホイール
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運転席側のエアバッグの展開
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図4 長方形のステアリングホイールと運転席側のエアバッグの展開
同ホイールの輪郭を長方形にすることで、同ホイールがダッシュボードに収めた運転席側のエアバッグの展開の邪魔にならないように配慮した。(出所:Daimler)