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 AWS(Amazon Web Services)の勢力拡大が新たな段階に入ってきた。これまでの企業ユーザーに加え、本来ライバルであるはずのITベンダーが相次いで採用を決めているのだ。IBMは2022年5月にAWSとの戦略的協業契約の締結を発表。「IBM Db2」や「IBM Watson Orchestrate」といった同社のソフトウエアをAWS上でSaaSとして提供していく。

 同じく5月、富士通もAWSとの戦略的協業に合意。同社の金融ソリューション「Finplex」や小売業界向けDX支援サービス「Brainforce」などを中核に、AWS上でマネージドサービスを開発し、提供する計画である。

 企業ユーザーのみならず、官公庁やITベンダーにも人気上昇中のAWS。さすがにクラウドサービスのデファクトスタンダードの地位を得たと言ってよいだろう。

 一般にデファクトは市場における「事実上の標準」を指す。IT業界にもそう呼ばれる製品やサービスいくつかあるが、いつデファクトになったかを示すのは難しい。市場シェアがある数値を超えたらデファクト認定といった明確な基準がないからだ。

データベース選定が一大テーマ

 これまでの取材活動のなかで「ああ、デファクトになったな」と感じた瞬間が一度だけある。1990年代後半の企業向けデータベース製品市場でのことだ。当時は「Oracle DB」「Microsoft SQL Server」「IBM DB2(現在はDb2)」「Sybase」「Informix」などさまざまな製品が機能強化を競った時期で、どれを選ぶかが情報システム構築の一大テーマだった。

 ユーザーやSIベンダーはこぞって「製品比較表」を作成し、性能、信頼性、運用保守性、コストなど多様な視点からベストの見極めに力を注いだ。IT雑誌も新しい製品や機能の解説、導入事例の紹介などにページを割いた。

 そうした中でデファクトの地位を勝ち取ったのはOracle DBである。90年代後半に出荷された「Oracle8」ぐらいから、市場シェアを大きく伸ばした印象がある。「日経オープンシステム」が2001年10月に行った「企業情報システム実態調査2001年版」を引っ張り出し、当時の利用動向を確認してみた。

 読者3000人を対象にした調査であり、データベースに関する有効回答数は649件。利用しているデータベースを聞いた結果を見ると、1位は367件でOracle、146件で2位のMS SQL Serverに対してダブルスコア以上の差をつけた。単純に計算した利用率は56%に上る。

 ただしデファクトを感じたのはこうした調査結果からではない。当時、新たにデータベースを導入した大手企業のシステム部長にインタビューしたときのことだ。いくつかの製品を比較し選んだのがOracleだった。ところが、どの比較項目が決め手になったのかを尋ねると、どうも歯切れが悪い。最後に部長が放ったのは「Oracleを選んで失敗したなら仕方がないから」の一言だった。

 「仕方がない」には2つの意味があると感じた。1つは、失敗するリスクの低い製品を選び抜いたという自信の裏返し。もう1つは、こちらのほうが重要かもしれないが、たとえ失敗しても周りから攻められるリスクが低いであろうという思惑だ。デファクトとは、こうしたリスクが最も低いと見込まれる選択肢の異名とも言えるのではないか。

 今なら「AWSを選んで失敗したなら仕方がない」といった感覚に重なる。企業情報システムにおけるデファクトの代名詞のバトンは、Oracle DBからAWSへ渡ってきた。