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 欧州自動車関連メーカーが、不思議なことに水素エンジンの開発にこぞって力を注ぎ始めた。「電気自動車(EV)一辺倒」に思える欧州の自動車戦略の裏で、虎視眈々(たんたん)と水素(H2)の競争優位を構築しようとするしたたかな戦略が透けてみえる。日本ではトヨタ自動車が方針転換し、水素エンジン開発にかじを切る。くしくも欧州と軌を一にするが、孤軍奮闘の感は否めない。

例年はオーストリア・ウィーンのホーフブルク宮殿で開催される「ウィーン・モーター・シンポジウム」。2021年は4月29~30日にオンラインで開催された(撮影:日経クロステック)
例年はオーストリア・ウィーンのホーフブルク宮殿で開催される「ウィーン・モーター・シンポジウム」。2021年は4月29~30日にオンラインで開催された(撮影:日経クロステック)
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 2021年4月末に開催されたパワートレーン国際会議「42nd International Vienna Motor Symposium(ウィーン・モーター・シンポジウム)」。欧州自動車関連メーカーが水素エンジン技術を続々と発表した。

 ドイツのDaimler(ダイムラー)やBosch(ボッシュ)など大手メーカーに加えて、欧州の技術戦略に影響力がある大手エンジニアリング会社のオーストリアAVLやドイツFEV、同IAVなどが最新の水素エンジン技術を披露した。

 例えばIAVは、EVとディーゼルエンジン、水素エンジン、燃料電池車(FCEV)の4種類のパワートレーンを比較し、30年想定のドイツの電力構成において、水素エンジンが脱炭素に向けた有力な選択肢になると試算した1)

 燃料製造段階と走行段階で合計したWtW(ウェル・ツー・ホイール、1次エネルギーから車輪まで)の二酸化炭素(CO2)排出量は、水素エンジンとFCEVといった「水素燃料車」がEVに比べて少なくなると解析する。さらに総保有コスト(TCO)の観点で、乗用車ではFCEVと水素エンジンが同等、小型商用車では水素エンジンに分があると計算した。

 IAV Senior Vice President Advanced Development PowertrainのMarc Sens氏は「WtWで考えると、水素パワートレーンはEVよりもCO2排出量が低くなる可能性がある」と主張する。

 FEVは、水素エンジンの課題である窒素酸化物(NOx)排出量を十分に抑えられるとの解析結果を発表2)。AVLは大型トラックにおいて水素エンジンがディーゼルエンジンの代替となり得ることを示した3)

 IAVやFEV、AVLは大手自動車メーカーの研究受託を多く手掛け、その方向性に大きな影響を与える。3社が水素エンジンの優位性をアピールするのは、欧州自動車メーカーの技術戦略において、水素エンジンがEVと並ぶ「切り札」に昇格していることを示唆する。