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 「バーチャル展示会」をご存じだろうか。パソコン(PC)のWebブラウザーやスマートフォンのアプリから展示会に入場した来場者は、会場内を歩き回るかのように画面を操作し、その企業の製品について詳しく知ることができる。中には、ヘッドマウントディスプレー(HMD)に対応したバーチャル展示会もあるという。特徴的なのは、そこで使われるコンテンツが実際の(リアルな製品を展示した)展示ブースを360度カメラで撮影したものである点だ。「リアルタイム」での参加はできないものの、実際の展示会にリモート参加するような感覚だ。いわばバーチャルとリアルをハイブリッド化した展示会である。

イグスのバーチャル展示会
イグスのバーチャル展示会
(出所:イグス)
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 正直、筆者はこれまでバーチャル展示会に懐疑的だった。IT関係の展示会を代替するなら、まだハードルは低いに違いない。展示するのは主にソフトウエアで、来場者もITに詳しい人が多いだろうから、こうしたイベントに抵抗を感じにくい。しかし、製造業の場合はどうだろう。実物の製品を目の前で見たり手で触れたりできなければ、展示会に参加する醍醐味が減ってしまうと考える技術者が多いのではないだろうか。

 ところが、大きな会場に多くの出展者や来場者が集まる展示会は開催しづらい状況が続いている。業界団体の日本展示会協会によれば、2020年2月下旬以降、約450の展示会が中止や延期に追い込まれた。そもそも、東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴って首都圏の展示場が使いにくい状況だったところに、新型コロナウイルス感染症がまん延した。さらに、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まり、見通しは良くない。海外でも、展示会の中止が相次いでいる。

ハノーバーメッセの代替

 こうした状況を埋め合わせようと、なんと製造業でもバーチャル展示会に取り組む企業が現れ始めた。例えば、ドイツの機械部品メーカーであるイグス(igus)。同社はドイツ西部に位置するケルン市の本社敷地内に、広さ約400m2の展示ブースを設営。100点以上の製品を並べた様子をカメラで撮影し、2020年5月にその内容を公式ページ上で公開した。

 来場者は、まるでグーグルマップの「ストリートビュー」のように、同社の展示会場を歩き回れる。製品画像には説明ページへのリンクが張ってあるから、気になる製品を見つけた来場者は、そのリンクをクリックして説明を閲覧できる。また、同社の説明員の姿をクリックすれば動画が開き、映像と音声で説明が始まる。訪問予約をしておけば、同社の担当者と一緒に「ガイドツアー」のような体験をすることも可能だ。

 この取り組みは、2020年4月に開催予定だった産業機械の見本市「ハノーバーメッセ(Hannover Messe)」の代替といえる。新型コロナの影響で当初、ハノーバーメッセは同年7月に延期するとしていたが、最終的に中止となった。例年、同社はこの見本市にブースを構えて新製品を発表していた。今年はその場をバーチャル展示会に求めたというわけだ。