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 博多駅からバスでひと山越えて1時間強。都市圏の交通網に慣れた人にとっては便利とは言えない場所に、サントリーや花王など名だたる有力ブランドの企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)担当者が月に1度、1週間集まる場所がある。大手ディスカウントストア、トライアルカンパニーの「musubu AI」だ。課題を共有し巻き込む力とロケーションの妙は、新型コロナウイルス禍でもあえてリアルで集う意義を生み出す。

 博多駅からダムを横目に犬鳴山を越えると、2016年に廃校になった旧吉川小学校が現れる。周囲を川や山に囲まれたのどかな風景に、様々な鳥のさえずりが響く。2022年5月17日、校舎の面影を強く残す建物の中にはサントリー、花王、カルビーや日本ハムなど名だたるブランドの企業のDX担当者が集まっていた。

musubu AIには流通業界のDXを目指して多くの企業が集う
musubu AIには流通業界のDXを目指して多くの企業が集う
(撮影:日経クロステック)
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 旧吉川小学校は2021年7月29日、宮若市とトライアルカンパニーの共同プロジェクトでmusubu AIとして生まれ変わった。教室などをサテライトオフィスやプロジェクトルームとして活用し、業種や競合の壁を越えた連携で小売流通業のDXにつながるAIの開発拠点となることを目指す。現在はメーカーや卸など28社と1団体が入居する。

 musubu AIでは毎月5日間「宮若ウィーク」と題したイベントを開く。入居企業が集まり、トライアルの店内カメラで得た来店客の行動データをもとに最適な商品配置を自動作成する手法などについてワークショップや議論を重ねる。

 現在、入居企業の多くは宮若ウィークや打ち合わせなどがある時に出張でmusubu AIを利用する。どの企業にとっても貴重なDXメンバーを毎月1週間にわたって呼ぶには、宮若ウィークに相応の魅力が必要となる。トライアルは一体どうやって、有力企業をはるばるリアルの場に集めているのか。そこには強みを持つ企業同士が協力して新たな価値を生み出すデジタル変革、いわば「DX共創」に欠かせない視点と、立地への独自の工夫がある。