国土交通省は近年、建設現場へのICT(情報通信技術)導入に力を注ぐ。ICT施工で得られる3次元測量データは、詳細かつ直感的に地形を把握できる。一方で、無人偵察機の飛行ルート策定やミサイル攻撃の目標選定といった“軍事手段”に転用されるリスクがあることはご存じだろうか。
「仮想敵国の軍隊が公開情報やスパイ行為などによって、日本の詳細な地形情報を収集するのは当然のことだ」。元自衛官でインテリジェンス(情報収集・分析)問題に詳しいサイバーディフェンス研究所(東京・千代田)の名和利男専務理事は、測量データの軍事転用のリスクについてこう強調する。
特に近年、測量データの重要性は高まっている。「現代の戦争は、無人機などで戦場の情報をリアルタイムに収集する“偵察活動の高度化”を重視する。攻撃の被害を最大化できるからだ」(名和専務理事)。無人機の安全航行には、事前に高精度な地形情報を確保することが欠かせない。
例えば、沖縄県尖閣諸島に近い南西諸島で整備が進む自衛隊の防衛施設は、有事の際に中国軍からの攻撃対象となる可能性が高い。現在も、周辺海域では中国の海洋調査船が頻繁に活動している。当該地域の測量データは、中国にとって、のどから手が出るほど欲しい情報だろう。
ここで問題となるのが、水中透過性の高いグリーンレーザーを照射する計測技術などの進歩によって、水深50m程度までの海底地形を含む詳細な測量データを、簡単に入手できるようになったことだ。
「南西諸島周辺の海底地形の高精度な測量データが悪用されると、太平洋進出に力を入れる中国軍の潜水艦などの隠密行動が容易化しかねない」。元愛知県職員でインフラ技術の輸出業務に携わる日興イノベーシア(愛知県春日井市)の印東宏紀代表取締役はこう指摘する。