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 「ひさびさにその言葉を聞きましたよ」

 こう筆者に話したのは、工場の保安システムに詳しいコンサルタントである。取材中に筆者が「インダストリー4.0(Industry 4.0)」と口にした際、何年かぶりに思い出したと語ってくれた。はやりの「デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)」という言葉の陰に、すっかり隠れてしまったようである。時代を象徴するキーワードの移ろいを肌で感じた瞬間だった。

展示会の入り口に映し出された「INDUSTRY 4.0」の文字
展示会の入り口に映し出された「INDUSTRY 4.0」の文字
ドイツ・ニュルンベルクで開催された産業用制御システムの展示会「SPS IPC Drives 2019」の会場入り口。(出所:日経クロステック)
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 Industry 4.0とは「第4次産業革命」を意味する。製造業に関わるほとんどの人が一度は耳にしたことがある単語だろう。ざっくり言えば、「製造業のデジタル化を推し進めて情報を見える化し、新しいビジネスモデルにつなげよう」というコンセプトだ。デジタルツイン(サイバーフィジカルシステムとも言う)やIoT(Internet of Things)といったITを駆使し、高い生産性と多様な市場ニーズへの対応を両立する製造業の理想の姿といえる。

 もともと、2011年にドイツ政府が打ち出した技術政策である(ドイツ語では「Industrie 4.0」)。我々を含めて、当時のメディアは「製造業の新潮流」として取り上げてきた経緯がある。先進性を打ち出してドイツの製造業を諸外国に宣伝するマーケティングとしての側面もあった。分かりやすい「売り文句」となるキーワードがあった方が売りやすい。かつて筆者が取材していると、「ドイツは宣伝がうまい」といった「羨望の声」を漏らす日本のFAメーカーがあったのを思い出す。

 ちなみに、DXの意味は、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」。04年(実はIndustry 4.0より古い!)、スウェーデンのウメオ大学教授(当時)のエリック・ストルターマン氏が提唱した。製造業に限らず、幅広い分野のデジタル革新を指している。

 実際、Industry 4.0というキーワードには破壊力があった。ドイツに負けじと、米国では広い産業を対象とした「Industrial Internet」が、日本でも「コネクテッドインダストリーズ」といった概念が提唱された。

 「Industry 4.0は大きな成功を収めていて、そのブランドは世界中で受け入れられている」――。ドイツSiemens(シーメンス)取締役のCedrik Neike(セドリック・ナイケ)氏は、世界最大規模の産業技術展示会「HANNOVER MESSE 2021: Digital Edition」(ハノーバーメッセ)のプレス説明会でこう述べて胸を張った。「10年前にIndustry 4.0が掲げた理想のうち、何が実現されて何が実現されていないと思うか」という質問への回答である。

 正直、筆者としては物足りない答えだったが、ドイツの大企業であってもIndustry 4.0というキーワードが製造業の現場で果たした役割について、簡潔に説明するのは難しいのかもしれない。ただ、「ブランドが世界中で受け入れられている」のは確かなようだ。なぜなら、筆者はこうしてIndustry 4.0の記事を書いているのだから。