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比率の議論どころではなくなった

 今後、この電源構成の比率を新たに決めていくことは形骸化以上に百害あって一利なしです。2050年にカーボンニュートラル、さらには2030年に2013年比で地球温暖化ガスの正味排出量を46%減らすための取り組みと、電源構成の比率を決めてそれを守ろうとする姿勢はまったくといっていいほど両立しないからです。

 こうしたカーボンニュートラルの大目標を実現する上でまずやらなくてはならないのが、再生可能エネルギーや原子力発電など地球温暖化ガスをほとんど出さない電源を最大限増やしていくことです。その際、他の発電源との比率を云々している余裕はないのです。

 カーボンニュートラルの目標達成のためには全消費電力量だけを再生可能エネルギーや原子力発電にしたのではまったく足りず、熱源や動力源としている石油・ガソリンなど非電力向けエネルギーさえも、再生可能エネルギーや原子力発電由来のグリーン燃料で賄う覚悟が必要です。

 こう書くと、「でも、同時同量則はどんな時代でも消えてなくならない。そして再生可能エネルギーは出力変動する、逆に原発は大きくは出力変動(負荷追従運転)できないから、同時同量則を守るためには、それらをカバーする火力発電をなくすことはできない」という反論をいただきそうです。

蓄電池の大量導入で同時同量の鎖を切る

 これは確かにその通りです。そこで必要になるのが(2)の蓄電池の電力系統への大量導入です。

 蓄電池を大量導入することで、パイの大きさ自体を実質的に拡大できます。具体的には、再生可能エネルギーなどの出力が電力需要量を上回った場合はその分の電力を充電、下回った場合は放電して、火力発電などに頼らずとも電力系統を平準化できるようになります。

 その場合も、同時同量則自体は守る必要がありますが、それが、発電事業者の“発電の自由”を縛ることがなくなります。つまり、各発電事業者が現在のような詳細な発電計画を事前に提出することなしに勝手に発電できるようになります。特定の電源を大きく増やしても、他の電源が直ちに困ることもありません。電力需要量を超えた余剰発電分は、蓄電池に(後述するように必要なら水素として)蓄電すればよいのです。電源構成の比率といった概念はもはや意味を失います。

 すると、コスト削減に成功して安い電力をどんどん発電する発電事業者も出てきてくるでしょう。その結果として、電気料金が安くなります。通信分野では、インターネットなどの通信の自由化の過程で通信料金の劇的な低下につながりました。同様なことは、資本主義の一般的な市場でも当たり前に起こっています。電気料金が安くなれば電力需要も増えるはずです。増やせば増やすほどコストが下がる再生可能エネルギーにとって、正の循環が回りだします。上述の熱源や動力源用も含めて考えれば、数十年先から100年先ぐらいまではいくら再生可能エネルギーを増やしても増やしすぎる心配はありません。

 現状の電力システムでは、同時同量則を守ることを大義名分とした“計画経済”が発電事業者を支配しているため、こうした競争やその結果としての市場規模拡大の余地がほとんどないのです。

 ここでいう蓄電池は、当面はリチウム(Li)イオン2次電池(LIB)です。LIBは比較的応答性が高く、電力系統の1秒~1日前後までの比較的短期間の出力変動を吸収し平準化する能力に優れています。

蓄電池のコストは既に火力や揚水に並ぶ水準

 こういうと反論の“追撃”が来そうです。例えば、「技術的には可能でも、経済合理性が得られない。蓄電池もタダではなく、再生可能エネルギーの追加コストになってしまうのでは?」という反論です。

 これには、経済合理性が今まさに成り立つようになりつつあると回答できます。再生可能エネルギーのコストが急速に下がっているうえに、LIBの価格も急速に低下しているからです(図2)。特に米国などでは、「系統の出力調整役としてのLIBのコストが中小規模の火力発電と同等以下になりつつある」(米調査会社のBloombergNEF)という指摘も出てきています。

図2 太陽光発電の固定買い取り価格も蓄電池の価格も共に右肩下がり
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図2 太陽光発電の固定買い取り価格も蓄電池の価格も共に右肩下がり
固定価格買い取り制度は、一般に実際の発電コストよりもやや高く設定されていると考えられるため、日本での太陽光発電の発電コストも現時点で8~9円/kWhになっていると推定できる。(図:経済産業省 資源エネルギー庁、「エネルギー基本計画の見直しに向けて」、2020年10月13日、p.52より引用)

 日本ではLIBを系統の出力平準化に用いる際に経済合理性が成り立つ目安として、揚水発電のコストを下回ること、という議論がなされています。具体的には、経済産業省が2012年7月に発表した系統平準化に使うための蓄電池の価格目標として「揚水発電と同額の設置コスト(2.3万円/kWh)の達成」を挙げました1)

 当時のLIBの価格は20万円/kWhでした。一方、現在の車載向けLIBパッケージの価格はその1/10以下の1.5万~2万円/kWh(日経クロステック調べ)で、既に上のコスト目標を下回っています。

 日本国内の家庭用蓄電池はまだ価格が高めですが、産業または電力系統向けの大型の定置型蓄電池システムでは、米テスラ(Tesla)がプライスリーダーになって、かなり価格が下がってきています。Teslaは正式な価格を公表していませんが、一部報道では「テスラのMegapackは200~300米ドル/kWh」という推測値が出ています(写真1)。

写真1 テスラのMegapack
写真1 テスラのMegapack
容量はコンテナ1基で最大3MWh。(写真:テスラ)

 ちなみに、経済産業省が挙げた2.3万円/kWhという揚水発電の蓄電コストは実は同発電のコストのほぼ下限です。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2017年の資料によると「揚水発電の設備コストは2万8000~4万7000円/kWh」となっていて、4万円/kWh程度以下であれば、おおよその経済合理性は成り立つようです2)