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 2020年10月に内閣総理大臣の菅義偉氏が2050年のカーボンニュートラル宣言をしてからというもの、脱炭素化関連の記事を見ない日はありません。ただし、その具体的な実現の道筋はまだ政府からは公表されていません。おそらく、現在、内容が議論されている「第6次エネルギー基本計画」である程度の道筋を示してくるはずです。

 この新しい計画がエネルギーの新時代をひらく上で意味のあるものになるかどうかの試金石が、大きく2つあります。(1)「電源構成の比率」、つまり火力発電が何%、再生可能エネルギーが何%、原子力発電が何%、という発電量の比率について目標値を設定するかどうか、(2)電力系統に蓄電池を大量導入することを掲げ、しかもその導入量について数値目標を設定するかどうか、の2つです。

 まず(1)について。電源構成の比率は、「エネルギーミックス」とも呼ぶようです。2018年7月発表の第5次エネルギー基本計画までは、この電源構成比率をどう決めるかの議論に多くの時間が費やされてしまいました(図1)。今度の新しいエネルギー基本計画では、こうした無駄な議論は一切やめるべきです。

図1 2018年の第5次エネルギー基本計画における電源構成比率の例
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図1 2018年の第5次エネルギー基本計画における電源構成比率の例
(図:経済産業省 資源エネルギー庁、「エネルギー基本計画の見直しに向けて」、2020年10月13日、p.14より引用)

 それはなぜか。この電源構成の比率は電力系統の安定運用にとって以前は非常に重要でしたが、既に形骸化しているのが現状で、かつて米の生産と配給を管理していた食糧管理法のような存在になりつつあります。そして、今後はそれがあること自体が時代遅れで、カーボンニュートラルやエネルギー市場の成長戦略と激しく矛盾することになります。

 かつては、この電源構成の比率を決めることは重要でした。理由は「同時同量則」という技術的制約があるためです。これは、1つの電力系統に同時に流せる発電出力の合計はその時々の電力消費の合計と一致していなければならないというものです。仮に同時同量則が成り立たない事態では、停電になる可能性が高まります。最悪の場合、タービンなどの発電システムが破損して復旧に長い時間がかかることになります。

 電力消費量が急速に増えていた高度成長期であれば、各発電事業者にとっての課題はとにかく発電量を増やすことで、同時同量則は事業にとっての大きな足かせとはなりませんでした。ところが、少なくともこの10年来、日本を含む世界の先進国のほとんどでは、省エネルギー技術などのおかげで年間消費電力量や一次エネルギーの年間消費量がほぼ右肩下がりに減っています。すると、同時同量則を守るためにどれか1つの電源、例えば再生可能エネルギーの発電量を増やすには、他の電源の発電量を減らさねばなりませんでした。九州電力管内の電力系統など、太陽光発電システムを大量に導入したことで、その発電分をしばしば捨てねばならない事態になっているのも同時同量則が理由です。

 端的にいえば、“パイ”のサイズがほとんど変わらない、あるいは少しずつ小さくなることを前提に、その“分け前”を電源ごとに決める、というのが電源構成の比率の議論でした。そうした議論は政治そのもので、それがいかに大変で時間がかかるものかは想像に難くないでしょう。

 ただし、いくら比率を決めても現状ではほとんど守られてはいません。原発は多数が止まったままの一方で、再生可能エネルギーの設備容量はどんどん増えているからです。結果として、送電線の容量の多くが実質的に、動かない原発用に予約され、再生可能エネルギーが使えないというひずみも出てきています。