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 「都心部における充電施設の充実は、喫緊の課題だ」。日本自動車輸入組合(JAIA)のTill Scheer(ティル・シェア)理事長は、このように力を込めて訴えた。世界的に広がるカーボンニュートラル(炭素中立)への機運に乗り遅れまいと、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)といった電動車の売り込み活動が世界的に活発化している。日本も例外ではない。欧米の自動車メーカーが協力し、欧米の電動車(輸入電動車)の認知度向上や政府への働きかけなどに力を注ぐ。だが、輸入電動車にとって普及を妨げる頭痛の種があるようだ。それは、既存の集合住宅に関する問題だ。

日本自動車輸入組合(JAIA)が2021年6月10日に開催した「今から始める2035年~輸入電動車普及促進イベント~」の様子。アウディジャパンやビー・エム・ダブリュー、FCAジャパンといった輸入車インポーター13社が協力し、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を展示した(写真:日経クロステック)
日本自動車輸入組合(JAIA)が2021年6月10日に開催した「今から始める2035年~輸入電動車普及促進イベント~」の様子。アウディジャパンやビー・エム・ダブリュー、FCAジャパンといった輸入車インポーター13社が協力し、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を展示した(写真:日経クロステック)
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 ドイツBMWの「iX」「i4」や同Volkswagen(フォルクスワーゲン:VW)の「ID.4 GTX」など、新型EVに関するニュースが日々取り上げられ、欧米の自動車メーカーが存在感を増している。

 JAIAのシェア理事長によると、ドイツでは2020年の乗用車の新規登録車数において、EVは前年比3.1倍、PHEVは同4.4倍と急成長を遂げた。同国の場合、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策の一環として電動車に対する補助金が増額されたことなどが、普及を後押ししたようだ。

 一方、日本では欧米自動車メーカーの電動車は普及の勢いが鈍い。日本市場に投入した車種の少なさなどが影響し、認知度が低かったことが要因の1つとシェア理事長は説明する。20年の輸入車販売台数におけるEVの比率はわずか1.1%。それだけにJAIAはメーカーの垣根を越えて、輸入電動車の認知度向上と普及にまい進する。

 認知度向上の活動と並行して、JAIAは日本政府への働きかけにも余念がない。電動車購入に関連した補助金制度や充電インフラの拡充などを要望し、消費者が電動車を購入しやすい環境づくりにも注力する。

 特に充電インフラの整備は輸入電動車を普及させるために欠かせない要因とした。中でも集合住宅に対するインフラ整備に重点を置く。「インフラ整備が遅れている集合住宅に対して、導入を促進するための実行計画案を『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』に記載してほしい」と政府に要望したことを、シェア理事長は明らかにした。

 だがなぜ、「戸建て住宅」ではなく「集合住宅」なのだろうか。その理由は、輸入車購入者の住居環境に鍵があった。

日本自動車輸入組合(JAIA)のTill Scheer(ティル・シェア)理事長。JAIAは都市部における集合住宅の充電インフラ整備を重視していると語った(写真:日経クロステック)
日本自動車輸入組合(JAIA)のTill Scheer(ティル・シェア)理事長。JAIAは都市部における集合住宅の充電インフラ整備を重視していると語った(写真:日経クロステック)
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潜在顧客はマンションに居住

 都市部に住む人は、輸入車を購入する傾向が高いとJAIAは説明する。例えば東京都23区内における乗用車の登録台数は、輸入車の比率が25%に上る。このうち都心部に当たる港区だけに限ると約50%と半数を占める。全国では輸入車の比率は約9%であることと比較すると、輸入車の顧客は都心部に多いことが分かる。

 都心部の住宅事情に目を向けると、マンションなどの集合住宅が少なくない。実際、港区がまとめた「港区住宅基本計画[第4次]」の資料によると、15年時点では46.2%の人が11階建て以上の集合住宅(港区の資料では共同住宅と表記)に居住していた。同年の23区では、11階建て以上の集合住宅に居住する人の比率が16.5%であることから、港区は11階建て以上の集合住宅、いわゆるマンションに住む人が多いことがうかがえる。

 これらのデータから推測すると、輸入電動車を購入するような潜在顧客は従来の輸入車顧客と同様に、都心部のマンションに住んでいる可能性が高いというわけだ。既存のマンションに対する充電インフラの整備が遅れれば、充電環境が不便であるということがマイナス要因となりこれらの潜在顧客の購入意欲が低下しかねない。購入を諦める潜在顧客が出てくる可能性もあるだろう。それだけにJAIAは、集合住宅に対する充電インフラの整備を非常に重視していると読み取れる。

 ではどうしてマンションなどへの充電インフラ整備が遅れてしまうのだろうか。充電器を手掛けるABB(東京・品川)や充電ネットワークサービスを手掛けるDigital Charging Solutions(東京・中央)などの担当者たちは、都市部の集合住宅における充電器の設置の難しさを指摘する。