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 「デジタル化や脱炭素化という大きな変革の波の中、人口減少に伴う労働力不足にも直面する我が国において、創造性を発揮して付加価値を生み出していく原動力は『人』である」。政府が2022年6月7日に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)にはこう書かれている。

 骨太の方針には2024年度までの3年間で4000億円規模の予算を投入し、働く人が自らの意思でスキルアップし、デジタルなど成長分野へ移動できるよう支援することを盛り込んだ。また、「人的資本」への投資などの非財務情報の開示ルールを2022年中に策定することも明記した。骨太の方針と同じ日に閣議決定した「新しい資本主義実行計画」によると、2022年夏に人的資本可視化指針を公表する予定だ。

人材戦略のDXが重要だ

 人的資本という言葉を最近耳にすることが多い。きっかけは経済産業省が2020年9月に公表した報告書「人材版伊藤レポート」だ。人的資本とはこれまで人件費というコストと見られてきた企業の人材を、企業の成長の源泉となる資本として投資対象であると捉え直す考え方である。同報告書は人材戦略に求められる3つの視点(Perspectives)と5つの共通要素(Common Factors)の「3P・5Fモデル」を提示し、とりわけ3Pの1つめである「経営戦略と人材戦略が連動しているか」という視点を強調した。

人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素
人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素
(出所:経済産業省)
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 2022年5月、経産省は同報告書の内容を踏まえて人的資本経営をどう具体化するかの具体的アイデアを盛り込んだ「人材版伊藤レポート2.0」を公表した。人的資本経営を実現するには「経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するか」と「情報をどう可視化し、投資家に伝えるか」の両輪での取り組みが重要だと指摘する。そのうえで前者について「3P・5Fモデル」の枠組みに基づいて、具体的に実行すべき取り組みやポイント、工夫を企業事例とともに示している。

 「人材版伊藤レポート2.0」が特に強調するのはデータの活用である。「人材戦略のDX(デジタルトランスフォーメーション)が重要だ」と経産省経済産業政策局産業人材課の亀長尚尋課長補佐は指摘する。

 3つの視点(3P)のうちの2つめは「As is-To beギャップの定量把握」である。「経営戦略実現の障害となる人材面の課題を特定した上で、課題ごとにKPI(重要業績評価指標)を用いて、目指すべき姿(To be)の設定と現在の姿(As is)とのギャップの把握を定量的に行うことは、人材戦略が経営戦略と連動していることを判断し、人材戦略を不断に見直していくために重要である」と同報告書にはある。