量子コンピュータが注目を集めている。米IBMがクラウドコンピューティング経由での量子コンピュータの提供を開始したり、米マイクロソフト(Microsoft)が量子コンピュータの開発言語「Q#」を発表したりするなど、2018年に入り量子コンピュータ関連技術の提供が矢継ぎ早に続いている。
海外企業を追うように、NECや日立製作所、富士通などの国産コンピュータメーカーも相次ぎ量子コンピュータの開発を開始。ついに量子コンピュータの実用化が現実的になってきた――。
というのが、一般的な量子コンピュータが注目を集めている理由の説明だ。実際に取材をする中で、こうした話を何度も聞き、「実用化に向けて進化している」という実態の理解は深まってきた。しかし同時に、企業情報システム分野を長年追っている身として、「量子コンピュータがフツーの会社の情報システムにどう影響するのか」が気になっていた。
量子コンピュータのメリットの一般的な説明は以下のようなものだ。量子コンピュータは従来のノイマン型コンピュータとは異なる処理方式で動き、ノイマン型コンピュータでは実現できなかった大規模なデータ処理が可能になる。適用分野は機械学習や量子化学、シミュレーションといった分野が有望で、実用化されれば新薬や新素材の開発に資するシミュレーションが進み、数テラバイトを超えるデータの分析が一瞬で完了する。
確かに、新薬や新素材の開発などは、生活に大きく貢献しそうで夢があり、量子コンピュータに期待したい。だが多くの企業が導入している基幹系システムやグループウエアは、量子化学に何ら関わりがなく、今以上に高度なシミュレーションも不要のが実態ではないだろうか。
これまで企業向けシステムやパッケージソフトを開発してきたIT企業が量子コンピュータの開発になぜ注力するのか。実用化した先のビジネスが気になっていた。スパコン開発のように技術力を競うためなのだろうか。それとも本当に実用化された後にこれまでの情報システムでは実現できなかった、新たな企業システム像が描かれるのだろうか。
従来型の企業システムは残る
量子コンピュータは企業システムを変えるのか。まずこのテーマで取材を進めると、大まかな方向性が分かってきた。「今のところ量子コンピュータが進化しても、企業システムの在り方を変えるまでは至らなさそうだ」という結論である。
2018年度の研究開発のテーマの1つとして、量子コンピュータを取り上げているITベンダーがある。クラウドSI(システム構築)を得意とするテラスカイだ。クラウドの次に、パラダイムシフトを起こすIT技術の1つとして量子コンピュータに注目している。