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 新型コロナウイルスの影響で、プロ野球が例年より3カ月近く遅れて2020年6月19日に開幕した。感染拡大への対策として当面は無観客での開催となるが、スポーツのある日常が徐々に戻ろうとしている。

 勝敗の行方もさることながら、筆者の興味を引いたのが、ある国内プロ野球団が試験導入した「Deep Nine」(ディープナイン)というアプリケーションである。プレーの映像から選手の身体情報をAI(人工知能)を使って定量化・分析できる姿勢推定アプリである。AIで有名な東京大学松尾豊研究室発のスタートアップであるACES(エーシーズ、東京・文京)らが開発し、2020年6月に発表した。

野球のプレー映像から選手の関節の位置を抽出し、動きを分析できる姿勢推定アプリ「Deep Nine」。例えば、右肩や右肘など特定部位を指定して時間軸で変化を可視化できる。ACESと電通、GAORA、共同通信デジタルが共同開発した
野球のプレー映像から選手の関節の位置を抽出し、動きを分析できる姿勢推定アプリ「Deep Nine」。例えば、右肩や右肘など特定部位を指定して時間軸で変化を可視化できる。ACESと電通、GAORA、共同通信デジタルが共同開発した
(図:ACES)
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 Deep Nineはディープラーニング(深層学習)を使い、映像から選手の関節を25点検出し、その位置の座標や動く速度、関節間の角度などを分析する。「精度的に研究領域で最先端の姿勢推定モデルを使っている」(ACES 取締役の與島仙太郎氏)

 ディープラーニングを活用することで、身体にセンサーなどを装着することなく簡単に動きを分析できるのがメリットだ。膝を高く上げるなど野球独特の動きに対する精度を高めるために、学習用に人間の姿勢に関する約15万の映像に加え、数万単位の野球の映像を含むデータセットを使って開発したという。

 テクノロジーの活用で先を行く米メジャーリーグ(MLB)はもちろん、日本のプロ野球でもここ数年で、ドップラーレーダーを使って投球データ(ボールの回転数や変化量)、打球速度や角度などを瞬時に算出できる「TrackMan(トラックマン)」の導入が進んだ。現在、広島東洋カープが本拠地とするマツダスタジアムを除く、11球団のスタジアムに導入されている模様だ。

 しかし、TrackManのような専用システムは導入・運用コストが高いほか、TrackManでは選手の身体動作を可視化できない。Deep Nineなら、球場に設置する固定カメラではなく市販のビデオカメラ1台の映像でも分析できるため、運用コストも安い。

 例えば投手であれば、投球動作の中で肩・肘の位置や角度の変化、動く速度などを時間軸で可視化し、チームのアナリストなどが分析できる。選手ごとに身体動作とパフォーマンスの相関を分析することで、パフォーマンスが良いときと悪いときの動作の違いを明らかにしてコーチングに活用できたりする。また、動作データからケガにつながりやすい投げ方をしている場合は、フォームの改良でケガを予防できたりする。