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 東京都港区が、2021年6月24日に「シティハイツ竹芝エレベーター事故調査最終報告書」を公表した。当該事故が発生してから15年も経過しての最終報告書である。港区が最後に公表した第4次中間報告書(17年3月)からも4年を要している。なぜこのタイミングとなったのか。

十分に作動しなくなっていたブレーキ

 この事故は06年6月、東京都港区の集合住宅で発生した。エレベーターのトビラが開いたままでかごが上昇(戸開走行)し、降りようとしていた高校生がかごの床と乗り場(建物)の天井に挟まれて死亡した。

 事故原因は、かごを制止するブレーキを作動させるソレノイドに何らかの不具合が発生し、半掛かり状態で使い続けたためにブレーキライニングが異常摩耗した結果、ブレーキが十分に作動しなくなったと考えられている。ソレノイドの不具合としては、コイルの層間短絡によってソレノイドの推力が低下した可能性が高い。

図 事故を起こしたエレベーターのブレーキ構造
図 事故を起こしたエレベーターのブレーキ構造
円筒形のブレーキドラムを両脇から挟み込むようにブレーキライニング(左右各2枚)を配置。ブレーキライニングはブレーキアームに固定してあり、2本のブレーキアームはばねの力によって常に内向きの力が加わっている。ソレノイドに通電すると、ブレーキアームを外側に広げるように動くため、ブレーキが開放される。(写真:日経ものづくり、図は国土交通省の資料を基に日経ものづくりが作成)
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 戸開走行が発生した原因をめぐっては、製品メーカーの設計・製造面で構造上の問題(欠陥)があったのか、保守・点検に問題があったのかが論点の1つとなった。製品メーカー、保守業者、さらには建物の所有者という3者の存在と関係が、エレベーターの安全性を確保する責任の所在をあいまいにし、事故を発生させたともいえる。

 国土交通省や消費者庁の事故調査報告書はそれぞれ09年と16年に公表されており、前述のような事故原因が明らかになった。

押収された事故機部品は経年劣化で検証できず

 一方、港区はこれまで、1次から4次までの中間報告書を公表している。その中で、調査保留としていた項目が大きく2種類あった。具体的には、[1]捜査機関に押収された事故機部品の還付を待って行う調査、[2]訴訟の終結後に実施した関係者への聴取だ。前者では主にブレーキ装置等の機械的不具合の原因、後者では戸開走行を発生させるに至った保守・点検上の人為的問題を明らかにすることを目的としていた。

 捜査機関に押収されていた事故機の部品が港区に返却されたのは18年11月だ。ところが、捜査機関による調査の中で分解されたり切断されたりしており、さらに10年以上を経過していたため経年劣化も進んでいた。