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 米国のIT業界では、「市民開発者(Citizen Developer)」という言葉が浸透し始めている。ITエンジニアのような専門知識はないけれども、アプリケーションの開発に参加する人たちのことだ。

 例えば、ビジネス部門に所属するITに少し詳しい人が、自前でWebサービスやスマホアプリのプロトタイプ版を開発したりする。このような人たちが社内にいることは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する企業にとって大きな強みとなる。新規事業の立ち上げや業務のデジタル化に向けたシステム開発のサイクルを素早く回せるようになるからだ。

 こうした市民開発者が増加する原動力となっているのが、ソースコードを極力書かない「ローコード」と呼ばれる開発の方法だ。「ローコード開発プラットフォーム」と呼ばれる開発ツールを使ってアプリを開発する。GUIによる直感的な操作で画面デザインや業務ロジック、データ構造といった設計情報を入力すると、ツールがアプリを自動生成する仕組みだ。ソフト部品を組み合わせるなどして、素早く開発できる。

 ローコード開発ツールの市場はもともと、ポルトガルのOutSystems(アウトシステムズ)や米Mendix(メンディックス)といった専業ベンダーが中心のニッチな市場だったが、ここに来て地殻変動が起きている。大手クラウドベンダーがPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の1ジャンルとして力を入れ始めているからだ。

 例えば、米Salesforce.com(セールスフォース・ドット・コム)は「Lightning Platform」、米Microsoft(マイクロソフト)は「PowerApps」と呼ぶ開発ツールを展開している。両社とも自社のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)製品との親和性などを武器に、導入事例を増やしている。さらに、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)も2020年6月、AWS向けの開発ツール「Honeycode」の提供を始めた。現状ではベータ版なので競合に比べてできることは限られているが、クラウド最大手のツールだけに今後の「台風の目」になる可能性がある。