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 「開発の失敗が誰の責任か(追及して)とがめるかって?あり得ない、そんなのナイストライに決まっている」――。最近の取材で、最も記者の印象に残っている言葉だ。

システム開発や運用現場の心理的安全性を重視するデジタル先進企業が増えている
システム開発や運用現場の心理的安全性を重視するデジタル先進企業が増えている
(出所:123RF)
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 これはデジタル活用に積極的なことで知られる、ある大手流通業のCDO(最高デジタル責任者)を取材した際に出たコメントだ。インタビューの話題が過去のシステム開発プロジェクトの失敗に及んだ際、上記のような発言があった。

IT部門の「心理的安全性」を確保できているか

 正直、このコメントには「グッ」とくるものがあった。同時期に、みずほ銀行のシステム障害に関する特別調査委員会の報告書や、金融庁による業務改善命令の内容を記者自身が読み込んでいたからだ。

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 「失点を恐れて積極的・自発的な行動をとらない傾向を促進する企業風土が根底にある」「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」――。そこには厳しい書きぶりでみずほ銀行の企業風土を指摘する言葉が並んでいた。いわゆる「心理的安全性」(従業員が恐怖や不安を感じずに率先して意見を表明できる状態)が確保されていない状態である。

 ただこれはみずほ銀行に限った話ではなく、IT部門にとって往々にしてある話でもある。残念ながらシステムの開発や運用の現場は失敗をとがめられやすく、ひとたびトラブルが発生すれば、すぐに犯人捜しが始まる。

 お粗末な体たらくによる失敗は論外だが、新たなチャレンジの失敗に対して責任をとらされるような企業文化では、誰も挑戦をしなくなる。失敗を恐れ、「言われたことしかやらない」「保守的なスケジュールを提出する」など、仕事に対して悪気なく受け身になり、主体性も奪われる。こうして心理的安全性が確保されず、挑戦もしないマインドが育ってしまうのだ。

 だがデジタル戦略の巧拙が企業の成長を大きく左右するようになった昨今、IT・デジタル組織が挑戦できない風土では今後厳しくなるのは目に見えている。記者は強いデジタル部門を持つ企業は例外なく、IT部隊の心理的安全性が確保されているように感じる。そのこともあり、冒頭のCDOの発言には納得する面があった。