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 最近の筆者は、木造の建築プロジェクト取材がとにかく多い。「自分は『日経木造』の記者なのか?」と、冗談を言いたくなるほどだ。2022年上期を振り返ると、そんな半年間だったといえる。

 意識的に、木造の建物ばかり取材してきたわけではない。むしろこれまでは他の記者に任せて、木造の取材は控えめだった。

 ところが22年に竣工した話題の施設の多くが、構造の一部に木造を採用していた。そのため、新しもの好きの筆者は木造取材が続いてしまった。

木材を大胆に取り入れるビルが急増している(写真:日経クロステック)
木材を大胆に取り入れるビルが急増している(写真:日経クロステック)
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 この傾向は当分止まりそうにない。SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素を達成するには、鉄やコンクリートの使用量を減らし、代わって自然由来の木材を使うことが建設業界の大きなトレンドになっている。22年下期に木造は加速し、23~25年は木造の話題に事欠かなくなる勢いだ。25年の大阪・関西万博には、世界最大級の木造建築物がお目見えする見通しになっている。

 木造といっても、昔からある木造住宅の話ではない。中高層ビルの構造に木造を取り入れることを指している。一般には、中高層ビルにおける「木造ハイブリッド構造」または「(木造との)混構造」と呼ばれるものだ。鉄骨造や鉄筋コンクリート造と木造を組み合わせた構造である。完全に木造だけの「純木造」はまだ例外的である。

 これらの言葉から分かるように、わざわざ木造とのハイブリッドであることを強調している。今は中高層ビルの建設に木造を取り入れ始めた黎明(れいめい)期である。だから、木造であることを積極的にアピールしたいという思惑が、事業者にも設計者にもある。

 ただし、口に出して声高に言わなくても、一目見れば「このビルは木造だな」と分かるほうが押し付けがましくなくていい。多くの事業者や設計者は、そう考えているようだ。設計段階から、木造であることを訴求する要素を建物に取り入れてきている。

 そんな木造アピール合戦の視点で、新築プロジェクトを眺めてみるのも面白い。単純明快なのは、木をそのまま外部に見せてしまうことだ。街ゆく人に、ストレートに伝わる。

 例えば、アピール度満点なのは、名古屋市に完成した「タマディック名古屋ビル」である。ガラス張りのビルは、内部の木材が丸見えだ。CLT(直交集成板)を仕上げ材としてだけでなく、構造材としても用いた。設計したのは坂茂建築設計(東京・世田谷)である。

「タマディック名古屋ビル」はガラス張りのオフィスビルで、内部の木材が外から丸見えだ。木造アピール度満点(写真:日経クロステック)
「タマディック名古屋ビル」はガラス張りのオフィスビルで、内部の木材が外から丸見えだ。木造アピール度満点(写真:日経クロステック)
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 東京・渋谷で竣工したばかりのオフィスビル「COERU SHIBUYA(コエル シブヤ)」は、窓際に配置した「木鋼組子(もっこうくみこ)」が存在感を放っている。構造の一部にもなっている木鋼組子を、人の目に触れるファサードに取り込んだ。

窓際に「木鋼組子(もっこうくみこ)」を設置した東急不動産のオフィスビル「COERU SHIBUYA(コエル シブヤ)」も、木造アピールとしては分かりやすい(写真:日経クロステック)
窓際に「木鋼組子(もっこうくみこ)」を設置した東急不動産のオフィスビル「COERU SHIBUYA(コエル シブヤ)」も、木造アピールとしては分かりやすい(写真:日経クロステック)
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室内から木鋼組子を見ると、かなりの大きさであることが分かる。これくらい大きく取り入れないと、外からはよく見えないだろう(写真:日経クロステック)
室内から木鋼組子を見ると、かなりの大きさであることが分かる。これくらい大きく取り入れないと、外からはよく見えないだろう(写真:日経クロステック)
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 内部の木材をそのまま見せてしまうのはインパクトが大きいが、そうしたくてもできない事例が多々ある。木造部分が建物の仕上げ材に覆われて隠れてしまい、見えなくなるケースがあるからだ。その場合は奥の手として、「一番見せたい木造部分は見えないが、一部木造であることはきちんと伝わるように、木の仕上げ材や別の木製構造材を建物の目立つ場所で使う」。そんな裏技まで出てきた。

この秋に竣工予定の「東京芸術大学国際交流拠点(仮称)整備事業」の建設現場(22年4月時点)。上層階が木造であり、建設途中には木造の躯体(くたい)がよく見えている。だが完成すると、木造躯体は見えなくなってしまう。床の一部に使用した「NLT(Nail-Laminated Timber)」も国内最大規模の導入例だが、同じく建物が完成すると見えなくなる(写真:日経クロステック)
この秋に竣工予定の「東京芸術大学国際交流拠点(仮称)整備事業」の建設現場(22年4月時点)。上層階が木造であり、建設途中には木造の躯体(くたい)がよく見えている。だが完成すると、木造躯体は見えなくなってしまう。床の一部に使用した「NLT(Nail-Laminated Timber)」も国内最大規模の導入例だが、同じく建物が完成すると見えなくなる(写真:日経クロステック)
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東京芸術大学国際交流拠点の建物正面の窓際には「木露出耐震ブレース」を配置する予定。木造であることが伝わりやすくなる(写真:日経クロステック)
東京芸術大学国際交流拠点の建物正面の窓際には「木露出耐震ブレース」を配置する予定。木造であることが伝わりやすくなる(写真:日経クロステック)
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