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 NTT東日本とIPA(情報処理推進機構)が2020年4月に無償公開した在宅勤務に利用できる「シン・テレワークシステム」の記事のために、同システムを開発した登大遊氏への取材に同席した。登氏は大学在学中にVPN(仮想私設網)「SoftEther」を開発した、業界の有名人だ。わずか2〜3週間の開発期間や、機器代金が65万円しかかからなかったことも驚きだったが、筆者は登氏がNTT東日本に非常勤の立場で入社した事実に最も衝撃を受けた。かつて登氏とNTT東日本は、天敵とも言える間柄だったことを覚えていたからだ。そんな両者が組み合わさることで、新たな化学反応が生まれそうな予感がする。

NTT東日本に入社した天才プログラマーの登大遊氏
NTT東日本に入社した天才プログラマーの登大遊氏
(提供:NTT東日本)

 登氏はSoftEtherの開発で10代にしてIPAの「未踏スーパークリエータ」として認定された、文字通りの天才プログラマーだ。プログラマーとして超一流であることはもちろんだが、登氏は既存の価値観やしきたりを疑い、時には相手をからかいながらも、これまで当たり前と思われてきた仕組みをひっくり返してきた逸話も多い。

 その一つが、登氏は国のサイバーセキュリティーの業務を受け持つ際、秘密保持誓約書の提出を拒否したというエピソードだ。厳しすぎる誓約書の内容が開発を遅らせるとして代案を提案。国の仕組みすら変えてしまった。

 そんな既存の価値観やしきたりを疑う登氏の矛先は、かつてNTT東日本に向かったことがあった。NTT東日本のフレッツ網内でダイナミックDNSを利用して折り返すVPNサービスを実現するに当たり登氏は、2年間にわたって同社と交渉を重ねたからだ。

 その際のエピソードは登氏が代表取締役を務めるソフトイーサが16年6月に発表した「OPEN IPv6 ダイナミックDNS for フレッツ・光ネクスト」のリリースに詳しい。NTT東日本の本社を映画「スター・ウォーズ」に登場する銀河帝国軍の宇宙要塞(ようさい)「デス・スター」に例えたり、NTT東日本の担当者を「ダース・ベイダーのような」と表現したりするなど、NTT東日本との交渉を面白おかしくやゆしている。ただ最終的に交渉に打ち勝った登氏は、「NTT東日本は親ユーザー的な方向転換しようとしている姿勢が感じられる」と評価するに至っている。

 NTT東日本では、こうした登氏との対応を「登氏問題ファイル」なる資料によって社内で共有していたという。筆者はそんな過去を知っているからこそ、NTT東日本が登氏を社員として迎え入れた事実に驚いたわけだ。