ドローンやSNS(交流サイト)などは、災害後の情報の取得・共有に欠かせないツールとなった。2021年7月3日に静岡県熱海市で発生した大規模な土石流でも、被災地の現況把握などに大きく貢献している。こういった災害対応の中でも筆者が特に注目しているのが、静岡県が被災後数日で「バーチャル被災地」となる3次元モデルを構築した点だ。被災前から進めていた地形の3次元モデル化の取り組みと、被災直後に技術者有志が集まってそのモデルを分析したことが奏功した。
熱海市での土石流で、いち早く現場の検証に乗り出したのが「静岡点群サポートチーム」だ。県の担当者や地質学の有識者、データ分析の専門家らによる産官学のメンバーで構成している。土石流の発生直後に、急きょSNS上で有志を募り結成したという。
チームは、静岡県が災害前から公開していた熱海市内の3次元モデルを分析し、土石流の要因として「盛り土」を指摘。県はこの分析結果を参考に、「盛り土」を問題視するようになったという。県が盛り土を造成した企業の調査に踏み切るなど、早期の原因究明につながっている。
ここで重要なポイントは、静岡県が3次元データの整備を災害前から積極的に進めていたことだ。被災前の現況を詳細に表した3次元モデルがあったからこそ、原因を早期に分析できた。国土を3次元で可視化する効用を、多くの人が実感したのではないだろうか。
県は、17年からウェブサイト「Shizuoka Point Cloud DB」(PCDB)の運用を始めた。このサイトでは、道路やトンネルなど公共事業で取得した3次元の点群データを蓄積し、公開している。集まったデータは誰もが無料で利用できる。加工して2次利用することも可能だ。
今回被災した熱海市伊豆山地区の全域は、PCDBで網羅していなかった。ただ静岡県は並行して、県全体を3次元空間に構築する「VIRTUAL SHIZUOKA」プロジェクトの一環で、19年度から伊豆半島周辺の3次元モデルの作製に取り組んでいた。景観の検討や自動運転の促進、災害のシミュレーションなどが目的だ。
作製した3次元モデルは、一般社団法人の社会基盤情報流通推進協議会が運用する「G空間情報センター」に公開している。静岡点群サポートチームは、ここから被災前のモデルを使用した。