2020年7月14日にクラウドファンディングを開始したカスタムロードバイク「Superstrata」がネットで大きな話題を集めている。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製フレームを3Dプリンターで1台ごとに一体造形するため、従来のフレームより大幅に軽量化でき、体格に合わせたカスタマイズが可能な点が売りだ。この原稿執筆時点でクラウドファンディングの期限まで残り23日あるが、既に1787人のバッカ―(支援者)から256万7825米ドル(2億7545万円)と目標の25倍の金額を集める大成功を収めている。
実は先日、このロードバイクSuperstrataの現物を見る機会があった。といってもプロトタイプで製品版ではない。さらに言うと、記者のお目当てはこのロードバイクではなく、それを製造する米国のスタートアップAREVOの3Dプリンター「AQUA」である。7月10日、横浜市にあるAGC(2018年7月に旭硝子から社名変更)の横浜テクニカルセンター(旧京浜工場)で、AQUAの国内向けお披露目記者会見が開かれたので出かけてきた。
AREVOに投資したAGC
AGCが発表会場を提供した理由を端的に言うとAREVOに出資しているから。さらに言えば報道陣に見せたい3Dプリンターがそこにあったから。AGCは2018年5月にAREVOへの出資を決め、2019年12月にAQUAをこの場所に導入している。両社はパートナーとして3DプリンターによるCFRPの造形技術について共同で研究開発していくという。AREVOの技術と将来性を評価しての投資、連携ではあるが、AGCの立場ではもう少し広い視点でのもくろみがあるようだ。
AGCの事業の柱は現在でも自動車用/建築用ガラスをはじめとしたガラス事業である。その一方で今後の成長を見越した戦略事業の開拓も当然進めており、その1つとして目を付けているのが比強度が高く軽量化に効果的なCFRPなのだ。自動車や航空機などのモビリティ分野で、AQUAのような3Dプリンターで扱えるCFRPが今後幅広く使われる素材になるとみている。
CFRPは既に航空機や自動車で使われているがそのほとんどは熱硬化性樹脂を母材とするタイプ。繊維の長い炭素繊維(長繊維)に樹脂を含浸させたシート状の材料(プリプレグ)を、型に合わせて形を整え、高温・高圧環境下で樹脂を硬化させて成形する。これとは別に、短い炭素繊維を熱可塑性樹脂に混ぜるCFRPの実用化も近年進んでいる。長繊維タイプと異なり、射出成形が可能で生産性の向上が狙えるからだ。
AREVOのAQUAは、直径5~10μmの炭素繊維を6000~5万本束ね、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含浸させた線状の材料(フィラメント)を使う。これをレーザーで溶かしながら造形していく。強度的には短繊維CFRPより有利となる長繊維を使える点と6軸多関節ロボットで配向を制御する点が特徴的だ。増えているとはいえ、そもそもCFRPを扱える3Dプリンター自体がまだ少ないうえ、その多くは短繊維と熱可塑性樹脂の組み合わせしか使えない。AQUAはこの点で注目の3Dプリンターなのだ。