「一体これは何だ」と思って足を止めたのは、世界最大級の産業技術の国際展示会「HANNOVER MESSE 2022」(2022年5月30日~6月2日、ドイツ・ハノーバー)の最終日だった。
通路の向こうに2人の男性が歩いている。1人が背負っているリュックサック状のものは透明で、何やら映像が浮かび上がっている。
背負っていたデバイスは、3Dグラフィックスやホログラム映像の制作などを手掛けるドイツCAPSULARの「HOLOMAGIX GO」だった。超高輝度LEDを取り付けたローターブレード(羽根)が回転すると、3Dホログラム映像が浮かび上がる仕組みだ。
壁に掛けたりテーブルに取り付けたりして、主に企業のPR映像を映し出すもので、HANNOVER MESSE 2022では展示会のブースに入場者を呼び込むPR媒体として売り込んでいた。
「リアルだから出会えた」。男性の背中で動き回る映像を見ながら、そう思った。
リアル展示会ならではの「胸躍る」感覚
3年ぶりのリアル開催となるHANNOVER MESSE 2022。新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあって、例年に比べて出展社数も来場者数も少なかった。
では展示会として物足りなかったかというと、そうでもなかった。出展社数が減ったと言っても約2500社。1人で見て回るには十分すぎる、というか見切れないほどの数だ。密を避けて閉鎖的な空間がなくなった分だけ開放的で、来場者が熱心にブースを見て回るのに変わりはない。むしろ「これくらいでちょうどいい」と感じたのは、筆者だけではないはずだ。
何より、リアル開催ならではの「胸躍る」感覚は何にも変え難い。思いもよらぬ興味深い製品を発見する喜びは、なかなかオンラインでは味わえない。CAPSULARのHOLOMAGIX GOは、そんな来場者のニーズを捉えた製品だったといえるだろう。
ポイントは遊び心だろうか。オンライン展示会では、製品の種類やキーワードで検索して目的のアイテムに直行する。これに対してリアル展示会では、好むと好まざるとにかかわらず移動しなければならない。その途中でふと「気になる」ものに吸い込まれてしまう。そんな来場者心理をつかむのは、技術だけでなく遊び心も必要だと理解している企業は少なくない。