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 導入の費用は十数億円、期間は5年かかった外資系ERP(統合基幹業務システム)パッケージソフトが結局、稼働しなかった。あるいは稼働したもののバージョンアップもままならず、導入当時と変わらずほぼ会計ソフトとしか利用されていない――。

 2000年代前半、日経コンピュータの記者をしていた際にこんな事例を頻繁に見かけた。そのころ若手だった私は「外資系のERPの導入は難易度が高く、失敗するケースが多いのだ」との印象を抱いた。

 ITベンダーとユーザー企業の間で裁判になるケースもあった。ERPパッケージの導入を巡る裁判記録を読むと、「ITベンダーが提案したはずの機能がERPに備わっていなくて、開発が増えた」「想定以上にユーザー企業側の業務にERPの持つ業務機能が合わず開発工数が増大した」といった記述が頻繁に見られた。

 当時、ERPパッケージ導入の取材では「フィット・アンド・ギャップ分析を実施した結果、当社の業務プロセスとERPの持つ業務プロセスが合わず、業務改革とともにアドオン(追加開発)ソフトを1000本近く開発した」という話をしばしば聞いた。そして、「外資系ERPパッケージを日本企業が利用するためには、数多くのアドオンソフトが必要になるのか」と納得していた。

 そこから20年近くがたつ。今、ERPパッケージの導入プロジェクトはどうなっているのか。「導入期間は1年程度、早い場合は半年。費用は数千万円程度だった」という案件が増えている。記者の立場から言えば、「何の問題もなく、あっさりERP導入プロジェクトが終わり過ぎて、記事にするのが難しい」ほど難易度が下がっているように見える。

 ではなぜ2000年代前半に失敗が続いたERPの導入が、平成から令和の時代に入った今、難易度が下がったのか。ここ数年、ずっと疑問に思っていたことだ。その謎の一端を解き明かす文書に先日、出合った。

経験者のノウハウをまとめた文書は役立つか

 それが欧州SAPのERPのユーザー会であるジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)とSAPジャパンなどが中心になって作成した「日本企業のためのERP導入の羅針盤~ニッポンのERPを再定義する~(以下、ERP導入の羅針盤)」だ。130ページほどの文書で、JSUGのWebページなどで無償で公開したり、冊子を配布したりしている。

 この文書ではSAPのERPパッケージのユーザー企業やパートナー企業であるITベンダー、そしてJSUG、SAPジャパンのメンバー13人が、過去のERP導入の失敗の分析と、これからのERPパッケージ導入を成功に導くための指針を示している。

 ERP導入の羅針盤を読み、そして作成者の1人であるJSUGの前会長を務めた鈴鹿靖史 日本航空常勤監査役に話を聞いて、一番印象に残ったのが2000年代前半のERPの導入の失敗の原因の1つが「製品理解の不足」であるという分析だった。